WBC2026のNetflix独占配信は何を変えるのか|マーケティング視点で野球IPの長期価値を考える

こんにちはトロネコです。
今回はWBC2026を受けて、Netflix独占配信が野球市場にどんな影響を与えるのかを考えてみます。
ただ、この記事の本題は野球そのものではありません。
IPを持つ企業が、短期収益と長期価値のどちらを優先するのかという経営判断の話です。
この記事で皆さんに見て欲しいのは次の3点です。
② その変化がIPの裾野拡大にどう影響するのか
③ こうした判断を経営としてどう考えるべきか
今回、このテーマを取り上げたいと思った理由はシンプルです。
短期的なビジネス視点で見ると成功ですが
長期的に見ればWBCというIPに対する影響を与える可能性がある
そして、これってゲームIPの維持成長におけるマーケティング視点と共通するものがあるのではないか?
と考えたからです。
結論、ゲーム会社で働いている人、特に経営層の方には
今回のWBCから学ぶところがあると思います。
また、ゲームに限らず自社IPを持ち、それを維持していこうとする全ての業種にも参考になるので、ぜひ最後までご覧ください。
日本での放送がNetflix独占配信になったことでWBCというIP、強いては日本の野球市場にどんな影響が考えられるのか25年以上、ゲームマーケティングをやってきたトロネコの視点で分析します。
ちなみにNetflixの独占配信は、Netflixの努力によるビジネス判断なので、何も非はありません。
自社会員を獲得するためのパワープロモーションだからです。なのでNetflixやその他を批判するものではありません。
ここで問題がありそうなのは、野球というIPに対する考え方とWBCという構造上の問題です。
ここがゲーム事業におけるIPマーケティングと重なる部分があると思うのです。
事実として押さえておくべきこと
まず、最初にWBCがNetflix独占配信になったことや
WBCという構造上の部分で事実として押さえておくべきことを整理しましょう。
WBC2026の日本国内の放映はNetflix独占であり、その許諾費用は公式発表はないものの前回WBC2023の5倍に相当する約150億円と言われています。
この約150億円という金額は他国との比較データは確認できないものの、前回大会の約30億円規模とされる水準から大きく上がっており、日本市場ではかなり高額な条件だった可能性があります。
WBC2023視聴者数:9446.2万人(日本戦7試合のいずれかを視聴した人の合計)
出典:ビデオリサーチ
WBC2026の想定視聴者数:現時点では不明
Netflixから公式発表されている最新の会員数は2025年2月12日発表1000万人突破とあります。その後の増加分やWBC2026効果でどこまで積み上がったのかは不明ですが、あくまでも視聴者数ではなく、視聴可能数の上限値になります。
出典:Netflix
WBC2023大会は地上波で放送され9446万人が視聴したとされています。
一方で、Netflixの国内会員数だけでは2023年大会と同規模の接触を再現できたとは考えにくく、少なくとも地上波放送時より接触機会は狭くなった可能性があります。なお、会員数=WBC2026の視聴者数とはなりません。
WBC2026Global Partner
Japan Airlines(JAL)、IHI、ITO-EN、KOWA、MUFG、SEIKO、TENTIAL
収益管理・契約主体:WBCI
出典:MLB.com
運営の枠組み:WBCIを中心に、MLBが保有し、MLBPAと共同運営
大枠の収益配分:MLB、MLBPA、国際野球連盟側で均等配分
出典:SBJ.com
ここでのポイントは
日本が大きく貢献している一方で、日本側やNPBにどこまで還元されるのかは見えにくく、還元されにくいのではないかという批判が以前からある
という点です。
これについては2011年の記事で次のようなものがあります。Reutersによると2011年に前回大会の総収益配分で日本側は13%、一方でMLBとMLB選手会が66%を受け取ったと報じています。これは当時、日本の選手会が不公平だとして問題提起した経緯があるようです。
出典:Reuters
ただし、2026年時点の業界紙 Sports Business Journal は現在のWBC全体の収益配分について、MLB、MLBPA、国際野球連盟側で均等配分と説明しています。よって昔の「MLB側66%、日本13%」という構造は現在にそのまま当てはめることはできません。ただ、日本単独で意思決定や収益配分をコントロールできる構造ではない点は変わりません。
出典:SBJ.com
現状から分析・推測できること
ここから先は、公開されている事実を踏まえたうえでの仮説です。
ただ、IPを長く育てる経営判断としては、十分に検討する価値がある論点だと思います。
そして今回のテーマ
「WBCがNetflix独占配信による野球産業に対する今後の影響をIPマーケティング視点で分析」
において重要なポイントです。
WBCとは日本のファンに対して、そして日本企業に対してどんな効果と役割を果たしているのか?
事実を踏まえて簡単にまとめると次の通りです。
・WBC→直近は3年ベースで開催される、野球ファン以外も巻き込んだお祭り
実際のところ、WBCは熱心な野球ファンだけでなく、NPB、MLBを普段見ない人も巻き込む日本における国民的イベントに成長しました。
つまりまとめると
↓
毎年開催されるNPB、MLBでファンが新規ユーザーが定着する
↓
WBCで再び新しいファン予備軍を獲得する
といった野球というIPコンテンツの成長モデルができたわけです。これはIPマーケティングにおいては理想の形です。
でも、今回のWBC2026のおけるポイントは
Netflix視聴でリーチできるユーザーはLVTが高いユーザーかもしれないが、新しいファン予備軍は獲得しにくいという点です。
なぜなら、新しいファン予備軍の多くは熱心な野球ファンというよりも、地上波放送による圧倒的な視聴機会による偶発接触で獲得したユーザーだからです。
ポイントは圧倒的な視聴機会による偶発的接触という点です。
実はゲーム事業もそうですが
課金ユーザー、既存ユーザーばかり意識しているとIP自体は成長しません。
無課金プレイでもいいので、まずは偶発的接触によってゲームの存在を知りプレイしてもらう必要があります。
そのために、WBC→毎年のNPB→WBCといったような常に裾野を広げる起爆剤、ユーザー接触の入り口が重要になります。
しかし、今回はNetflixという限られた放送媒体になったため、偶発的接触によるファン予備軍の獲得がかなり制限された可能性がありそうです。
偶発的接触減少によるファンに対する影響は?
ゲームビジネスの場合、「課金しないユーザーは重要ではない」という考え方を持つ人もいるかもしれません。目先の利益、短期的な収益だけを見れば確かに重要ではないという考え方もあります。
しかし5年、10年、20年と長期にわたって強力なIPを育てていこう、という観点においては、短期的視点はマイナスに働きます。
なぜならゲーム事業はいかに自前のIPを育成し、それを複数束ねることで事業を安定させることができるかが、これこそゲーム会社が長く生き残っていく上での最重要課題だからです。
話を戻すとNetflix独占放送による限られた熱量の高い視聴者しか接触できず、偶発的接触が制限されたWBC2026の影響は、短期的には可視化できなくても中長期的に次のような影響を与えるリスクがあります。
つまりWBC2026で裾野を広げて、ファン予備軍という貯金を作っておくことができなかったマイナス影響が今後じわじわと効いてくる可能性があります。
このファン予備軍とは次のように分類できます。
②WBC2026を見て憧れて野球を始める子供達
野球産業は視聴者とプレイヤーから構成されています。WBC2023の盛り上がりをきっかけに、野球熱が高まった子供達は将来のNPBを支える人材であり、そしてその影響はMLBにも波及します。この子供達の盛り上がりが偶発的接触の減少でWBC2026では最大化されなかったとすると、未来において何かしらの影響はあり得るわけです。
偶発的接触減少による企業に対する影響は?
偶発的接触減による影響はファン予備軍だけでなく、企業対しても考えられます。
考えられるものは次の通りですです。
WBCをスポンサードしていた企業は広告効果が得られたのか
広告効果は接触母数が重要です。Netflixで視聴するユーザーはLTVが高いので、むしろ高所得層にリーチできたという考え方もできなくはないですが、一方でWBC2023と比べると、接触できたユーザー数は大きく減った可能性があります。
ここをどう考え、評価し、次回のWBCでスポンサーになるか判断が必要になります。
次回もNetflixのような限られた放送媒体になるならどうするか?
次回WBCが再び地上波に戻れば広告出稿側としては特に問題になりませんが、もしNeflix、もしくはそれに相当する「限られた視聴メディア」が許諾を受けた場合、広告の費用対効果として適切な価格を再考する必要があるかもしれません。
とはいえWBC2026は日本企業によって支えられてきたのは事実としてあります。
もし日本企業離れが加速したら、これはWBCにも大きな影響を与えます。
ゲームビジネスにおけるIPマーケティングにおける学び
さて、ここからはゲームストラテジストとしてのトロネコの分析パートになります。
今回のWBCでは、結果として野球人口の裾野を広げる機会が狭まった可能性があります。
しかし短期的にそのデメリットは可視化しにくく、そこまでマイナスだったのか?現時点では不明です。
実はここがゲームのIPマーケティングにも通じる話です。
例えばこんな感じです。
許諾を受けたゲーム会社が投資し頑張っても許諾費用が高額なので利益があまり残りません。その結果、ゲーム開発運営にコストをかけられず、結果的にユーザーの支持を得られずそしてゲームはサービス終了になります。
結果、IP許諾元、許諾を受けたゲーム会社、みんなが幸せになれないケースです。
一方でゲーム会社が所有しているIPなら許諾費用はかかりませんが、目先の利益追求に走りすぎてしまったりファンが求めるものとの間にズレが生じると、ファンは離れていきIPは毀損します。
こうした短期収益優先の判断で、IPの価値を削ってしまう例はゲーム業界でも珍しくありません。
IPの維持と育成には、短期で回収できない投資を続ける覚悟が必要です。
今回のWBCについて、少なくともIPを長期で育てる視点に立つなら、今回のような独占配信は短期収益だけでなく、裾野拡大への影響まで含めて判断すべきテーマだったはずです。
短期的には150億円という金額は美味しいのは間違い無いけど
長期的に見ると、Netflix独占配信は裾野拡大の力を弱め、野球ファン中心の閉じた市場に近づくリスクがあります。
このIPの毀損、価値低下は短期的には見えにくく、3年後、5年後、10年後になって顕在化します。その時に気づいても手遅れで、取り戻すには同じだけ、いやそれ以上の時間を要するのです。
IP毀損リスクをコントロールするのは経営層
ところで、このIP毀損に対するリスクは現場レイヤーではなかなか理解できません。
これは別に現場を責めるという話ではなく、仕方ない話です。なぜなら、現場は目の前の売上を積み上げることが会社からの評価軸になっていることが多いからです。
なのでゲーム会社においては、現場より、いかに経営層が意思を持ってIP育成の判断できるかが重要になります。
特に現在、特定のIPに事業収益を依存しているゲーム会社や、これから多額の資金を投じて新規IPを創造しようと考えている会社は、ぜひ今回のWBCの事象を学びにしましょう。
まとめ
最後にトロネコはどうやってIPを育成していくか?新規IPを立ち上げるのか?
そんなお手伝いもしています。
壁打ち相手として、相談相手として、
IPをどう育てるのか、短期収益と長期価値をどう両立するのか、
その判断を経営目線で一緒に考えるお手伝いをしています。
自社IPの育成方針に迷っている方、既存IPの価値低下に不安がある方はどうぞお気軽にご相談ください。
たとえば、既存IPの立て直し、新規IPの育成方針、短期収益と長期価値のバランス設計などのご相談をお待ちしています。
