こんにちはトロネコです。
今回は当サイトでもほぼ触れていませんが、きっとみんな興味がある
「家庭用ゲームソフト販売に効果あるデジタルマーケティング(Web広告)の設計方法」
というテーマをお話をします。
トロネコは20年以上のゲームマーケティングの経験がありますが、その内訳は
家庭用ゲーム13年→スマホゲーム7年
といった感じです。
家庭用ゲームでもデジタルマーケティングを実施していましたが、スマホゲームと比べると圧倒的に成果を出すことが難しく、苦労しました。
そもそも家庭用ゲーム販売にデジタルマーケティングという概念が存在するかというと怪しく、ただWeb広告を出したり、youtubeをやったり、SNS運用をしたりといった状態だったりします。
正直なところ家庭用ゲーム会社のデジタルマーケティングは、スマホゲーム会社のそれとは比べものにならないほど遅れています。
家庭用ゲーム会社から、スマホゲーム会社に転職した人が最初にカルチャーショックを受けるのが、実はデジタルマーケティング領域だったりします。
そもそも世の中を見渡しても
「家庭用ゲームのデジタルマーケティングはこういうものだ!」と提示できる人材はほぼ存在しなかったりします。
そこで、今回は長年、家庭用ゲームのマーケティングをやってきた経験をもとに、スマホゲームで培ったスキルをミックスして、家庭用ゲームにおけるデジタルマーケティングの攻略方法をご紹介します。
ちなみに、今回の内容は有料販売のスマホゲームアプリ(=売り切りアプリ)にも応用ができますので、売り切りアプリのデジタルマーケティングで苦労されている方も、ぜひ参考にしてみてください。
家庭用ゲームとスマホゲームのユーザーは同じではない。家庭用ゲームを遊ぶユーザーの属性を理解する
スマホゲームの仕事をしていても「ゲームユーザー」というくくりのユーザーセグメントは頻繁に出現します。
スマホゲームにおける「ゲームユーザー」とはゲームをする人、ゲームをする頻度が高い人、ゲーム内課金をする人
みたいな定義があるわけですが、スマホゲーム業界で使われている「ゲームユーザー」という言葉と、家庭用ゲーム業界で使われている「ゲームユーザー」という言葉が意味するところは必ずしも同じではないのです。
ざっくり整理してみると次のようになります。
スマホゲーム | 家庭用ゲーム | |
ゲームユーザーとは | スマホゲームを遊ぶ頻度が高い人 | ゲームが好きで、生活の中でゲームの優先順位が高い人 |
プレイ障壁 | スマホがあれば無料で遊べる | PS4、ニンテンドースイッチなどゲーム機の購入が必要であり、ゲームソフトも購入が必要である |
このように整理してみると、スマホゲームにおいて「ゲームユーザー」と呼んでいる人と、家庭用ゲームにおいて「ゲームユーザー」と呼んでいる人は、別世界の住人と思うくらいの差が存在します。
・家庭用ゲームユーザーは本当にゲーム好きである(ゲーム好きでなければゲーム機まで買わない)
・スマホゲームユーザーは、必ずしもガチのゲーマーとは限らず、一般的なスマホユーザーを大量に含んでいるスマホユーザーの総称である
というわけです。
なぜなら、ニンテンドースイッチ本体を3万円出して購入する時点で、家庭用ゲームユーザーはゲームに対する覚悟が決まっているからです。
ここで気づいて欲しいのは、
なんとなくインストールして結果的にハマって課金をするスマホゲームユーザーと
最初から決意してゲームを購入している家庭用ゲームユーザーでは、広告によるアプローチの仕方がそもそも違うということになります。
それが次のパートで解説する「ターゲティング広告」の話につながっていきます。
家庭用ゲームのデジタルマーケティングの基本は「純広」ではなく「ターゲティング広告」
家庭用ゲームソフト販売に対してデジタルマーケティングの効果を出そうとする場合、家庭用ゲーム機を持っていて、かつ、皆さんが担当している家庭用ゲームソフトのジャンル、モチーフに対して購入意欲を持っている人にリーチさせないと意味がありません。
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よくわからんスマホゲームだけどインストールしてみるか!!
といった感じに家庭用ゲームはならないのです。
つまり、家庭用ゲームの場合はかなりターゲットを絞って、購入見込み客にデジタル広告を当てなければなりません。
つまり「ターゲッティング広告ができる広告手法を取ること」が大前提になります。TwitterやFacebook、GDNなどユーザーの趣味嗜好や追跡型広告を選ぶ必要があります。
一方でtiktok、ニコニコ、Yahooのブランドパネル広告など「純広告」と呼ばれるインプレッション広告はターゲッティングがしにくいため、それ単体では効果を出しにくいのです。
どうしても使うなら
ターゲティング広告やオウンドメディア(自社SNS)やWebキャンペーン、PR、TVCMなど複合的にリーチを当てていく設計が必要になります。
よって家庭用ゲームで結果を出すには、ターゲティングができる広告媒体を使うことが前提になります。
家庭用ゲームのデジタルマーケティングは基本計測不可能!だから「推測」することが重要
スマホゲームにおけるWeb運用広告は広告SDKをアプリに実装することで計測可能です。実はあらゆる広告手段の中でも明確に数字が取れる唯一の広告なのです。
厳密には、広告を踏んでアプリインストールしたユーザーを測定しているだけで、広告でアプリの存在を知ったけど、広告を踏まずオーガニックでインストールしたユーザーも存在するので万能とは言えないのですが、数字が取れるというのは効果検証を行う上で価値があります。
一方で、家庭用ゲームの場合は広告SDKというものが存在しないですし、店頭販売は物理的に計測不可能であり、ニンテンドーeショップ、PSストアにおけるオンライン購入も追跡はできません。
つまり基本的に計測不可能なのです。
計測不可能ならどうすればいいのか?
答えは非常にシンプルです。
「計測できないなら推測する」
「推測するには推測するためのロジックを組んでおく」
たった、これだけです。
ちょっとだけ話を変えますね。
スマホゲームのTVCMは、スマホゲームのWeb運用広告のように広告効果を厳密に計測することはできません。しかし効果を推測することはできます。
・TVCMを投下した期間にインストールした「新規ユーザー」
・TVCMを投下した期間にゲームに復帰した「離脱ユーザー」
・TVCMを投下した期間にアクティビティが上がった「既存ユーザー」
いずれもゲーム内KPIの平常時との差分からTVCM期間の効果を推測できます。
推測できれば、かけたTVCMのコストから計算してCPIもROIも計算できます。
これらの数字は100%正確な数字ではないかもしれません。
でも前のパートでお話した通り、そもそも広告SDKを導入することで把握できるスマホゲームアプリのWeb運用広告ですら100%正解ではないのです。なぜなら広告SDKで計測できるのは、その広告を踏んでインストールしたユーザーであり、その広告の効果があったけど広告を踏まずアプリストア内で自分で検索してインストールしたユーザーも存在するからです。
でもスマホゲームのTVCMの効果はこのような方法で推測することで算出します。。
ということは家庭用ゲームでも推測することでWeb広告の効果を推測できます。
Web広告を投下した期間に家庭用ゲームのセールスに影響する数値変動が大なり小なりに、発生しているからです。
その数値変動、いわゆる家庭用ゲームのデジタルマーケティングにおける成果ポイントをどこに設定すればいいのか?については次のパートで解説します。
え!?家庭用ゲーム販売促進でデジタルマーケティングを実施したけど数値変動が見られない?
それって、デジタルマーケティングのやり方、クリエイティブ、そもそもターゲット設定や戦略が間違っているかも!?
実際にスマホゲームアプリでもデジタルマーケティングのやり方、クリエイティブ、ターゲット設定、戦略ミスで全くインストールされないゲームが山のようにあります。
デジタルマーケてティングが効くと思われているスマホゲームであっても、宣伝費をかければゲームアプリのインストールを必ず獲得できるというわけではありません。
家庭用ゲーム販売におけるデジタルマーケティングの成果ポイント
さて、ここからが今回のテーマで最も重要な部分に入っていきます。
家庭用ゲームにおける成果ポイントをどこに設定するか
デジタルマーケティング実施期間にどの数字が動いたら広告効果があったと「推測」するのか?
その成果ポイントについて解説します。
ちなみに大前提として、これからご紹介する成果ポイントがデジタルマーケティングの実施とリアルタイムで把握できる仕組みを、家庭用ゲームソフトの販売会社で持っている必要があります。
もし把握できないなら、デジタルマーケティング以前に改善するべきことがありそうです。
①予約数/受注数
スマホゲームには配信前に「事前予約」という概念があります。Twitter、LINEのフォロワー数を持って「事前予約数」としています。
実はこの「事前予約」という概念はそもそも家庭用ゲームの広告手法を参考にしたと言われています。
家庭用ゲームではゲームショップの店頭で「予約」をするという仕組みがあります。予約数を持ってお店は発注数を決め、お店からの発注数を持って、ゲーム会社は生産数を決めるというわけです。
最近は家庭用ゲームのストアでもオンラインで事前予約(事前注文)ができるようになっています。
つまり、ターゲッティング広告で予約促進のデジタル広告を投下すれば、理論上、その結果、ゲームショップ、またはオンラインストアでの事前予約の数値に影響を与えるというわけです。
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ではなく
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といった情報を然るべきターゲットユーザーにリーチさせる必要があります。
②販売数/追加注文数
家庭用ゲームも発売直後にはTVCMを投下してゲームソフトの販売促進を行います。その結果、店頭在庫がセルスルーして(家庭用ゲーム業界では店頭販売数をセルスルーと呼びます)
その結果、店頭在庫が減るのでお店から追加注文が来てセルインして(お店に納品出荷することをセルインと呼びます)
販売数が積み上がっていきます。オンラインストアならセルインとセルスルーが同時に(瞬時に)行われます。
つまり、理論上は「PS4でトロネコの大冒険本日発売!」というデジタルマーケティングを実施したら、その結果が販売数に反映されるわけです。
③体験版ダウンロード数
①②は家庭用ゲームの販売数に直接影響を与える成果ポイントですが、「体験版」は購入してくれるかもしれない見込み客の把握に役立ちます。
もし皆さんの会社が長い間、家庭用ゲーム販売をしているなら
体験版が100万ダウンロードいったら、そのうち10%に相当する10万本は初回販売が見込める
みたいなロジックが作れるはずです。
完全新作ではなく、シリーズ作品なら、さらにこの精度が上がるでしょう。
デジタルマーケティングに対する効果測定方法
・広告はターゲティングすること
・効果を「推測」すること
・成果ポイントを設定すること
この3つについて解説しました。
では、どうやってこれら項目を持って効果測定をするのでしょうか?
スマホゲームの場合は、基本プレイ無料という特性と、ゲーム内課金によるビジネスモデルであるためROI(Return On Investment)という指標が使えます。
客単価LTV(Life Time Value) ÷ 獲得コストCPI(Cost Per Install) = 投資指標ROI(Return On Investment)
となります。
LTV 2,000円÷ CPI 1,000円 = ROI 2.0(Return On Investment)
という計算式が成立します。
つまり1,000円投資したら2倍の2,000円になって戻ってくる計算になります。
しかし家庭用ゲームの場合は売り切りパッケージビジネスであるためROIという考え方が使いにくいという弱点があります。
そこで次のような効果測定方法を使います。
①プロジェクトROIから効果検証する
家庭用ゲームには必ず収支表が存在します。その収支表にはROIが書かれているはずです。
投資(開発費+宣伝費+販管費)に対して見込んでいるゲームソフトの利益からROIを算出できます。
投資が1億円で、見込み利益が2億円ならROIは2.0ですね。
例えばプロジェクトのROIが2.0だとしましょう。
ゲームソフト1本あたりの利益はわかっているはずなので、プロジェクト全体のROIがわかれば、そこから獲得コスト(スマホゲームでいうところのCPI)を逆算できます。
この獲得コストが広告で許容できる1本の売り上げにかけることができる上限金額になります。
実際のところデジタルマーケティングをしなくても、宣伝なんてしなくても購入してくれるユーザーもいますが、ここで重要なのは効果測定の概念を取り入れることです。
獲得コストが明確になれば、デジタルマーケティングの設計もしやすくなります。結果的に実態とのズレが生じたなら、次回作でチューニングしていけばいいのです。
ROI視点を効果検証の軸として設定する場合、ROIが超え続けて販売貢献できる限り、無限に宣伝費もかけられるという考え方になります。
つまり、デジタルマーケティングの宣伝費をあらかじめ決める必要はなく、ROI2.0を理論上、超えている限り全体利益に貢献するということになります
②全体予算に対するデジタルマーケティングの宣伝比率から設定する
もし、ROIという概念を採用しにくいと思うなら、全体予算に対するデジタルマーケティングの宣伝比率から、デジタルマーケティングで獲得するべき販売数を設定する方法もあります。
1億円の宣伝費があって、そのうちTVCMに8,000万円、店頭販促ツールに1,000万円、デジタルマーケティングに1,000万円と金額が決まっているとしましょう。
きっと家庭用ゲームの場合、最初に宣伝費が決まっているケースが多いはずです。
1億円の全体宣伝費に対してデジタルマーケティングの金額は1,000万円ですから、割合は10%になります。つまりデジタルマーケティング1,000万円を使って全体の販売目標数の10%をデジタルマーケティングで獲得するような設計をします。
いかに限られた宣伝費の中で、割り当てられた目標販売数に貢献できるか?という視点になります。
家庭用ゲーム販売におけるデジタルマーケティングの目的はファン醸成がおすすめ
ここまでがスマホゲームの考え方をベースにした家庭用ゲームソフト販売促進に対するデジタルマーケティングの考え方になります。
でも、実はこれからお話しすることが家庭用ゲームにおけるデジタルマーケティングにおいては重要であり、ここに核心があります。
なぜなら、スマホゲームは運用型ビジネスですが、家庭用ゲームはその都度、売り切り型ビジネスであり、今回の新作を売った後は、1年後の次回作を買っていただけるかが重要になるからです。
ここに気づくと、デジタルマーケティングで家庭用ゲームソフトの販売数を稼ぐ
という発想ではなく
シリーズを通して、何作品もずっと購入してくれるファンの母数をどうやって、毎日、毎月、毎年、増やしていくかが重要であることに気づくはずです。
例えば架空のゲームですが、トロネコのゲームが発売するとしましょう。
2021年4月、PS4で発売された完全新作「トロネコの大冒険」
2022年4月、PS4で続編の「トロネコの大冒険2」が発売
2023年4月、PS5で続編の「トロネコの大冒険3」が発売
といった感じで、家庭用ゲームの場合は「トロネコの大冒険」を売ることは重要だけど、本当の目的は「トロネコの大冒険2」「トロネコの大冒険3」というように、ずっと買い続けてもらうことにあります。
そのためには単発的なセールスではなく、「トロネコの大冒険」のファンを作り、積み上げていけるかが重要なのです。
この視点に切り替わると、単発的なゲームソフトの売り上げではなく
長期的なファンマーケティングの視点におけるデジタルマーケティングの実行が重要であると気づくことができます。
つまり、ROIの考え方も
「トロネコの大冒険」に対する
客単価LTV(Life Time Value) ÷ 獲得コストCPI(Cost Per Install) = 投資指標ROI(Return On Investment)
ではなく
「トロネコの大冒険のシリーズ作品」や「派生商品」に対する
客単価LTV(Life Time Value) ÷ 獲得コストCPI(Cost Per Install) = 投資指標ROI(Return On Investment)
という発想に切り替わります。
成果ポイントもTwitterフォロワー、ファンクラブ会員といった単体ソフトの売り上げや利益ではない「ファンプール」になってきます。
そうすればシリーズを重ねるごとにセールスは下がっていくのではなく、緩やかに増えていくでしょうし、そのIPを使ったゲーム以外の関連商品の売り上げや、家庭用ゲームからスマホにゲーム展開した際の資産にもつながるわけです。
そうすればTikTokやYouTube、ニコニコ動画、インスタグラムといった広告も、それ単体では販売に貢献しにくく、効果も見えにくいのですが、ファンマーケティングの視点になると実施する価値が出てきます。
まとめ
今回、「家庭用ゲームソフト販売に効果あるデジタルマーケティング(Web広告)の設計方法」について解説しました。
最終的に家庭用ゲームについては「ファンマーケティング」の視点に立ったデジタルマーケティングが重要という話をしましたが、残念ながら家庭用ゲームソフトについては次のような理由から、そこに行きつけない現実があります。
・宣伝費は、あくまでもそのソフトを売るために必要な宣伝費である
・家庭用ゲームは発売日を迎えたらゴールであり、そこで終了する
スマホゲームはずっと続いていく運営型ビジネスである一方で、家庭用ゲームはゴールが存在する売り切り型ビジネスというのが大きな原因です。
でも、ちょっと冷静になって考えてみてください。
この思考に染まっている故に、家庭用ゲームの新作タイトルが発売されるたびに、それがシリーズ作品であっても常にゼロから立ち上げになっていませんか?
これってすごく無駄です。効率が悪いのです。
厳密には前作にかけた宣伝費の効果は最新作にもなんらかアドオンされて影響を及ぼしているはずです。なぜなら前作でファンが形成されて、それが最新作にも影響するからです。
しかし、新作が発売されるたびに仕切り直しをして、再度立ち上げているような場面に何度も遭遇してきました。これではゲームの販売数を積み上げることはできません。
なぜ、このような状態になってしまっているのか?
それは家庭用ゲームのマーケティングが「線」ではなく「点」で行われており、
タイトルが発売されることで、途切れてしまっているからです。
マリオが今年で35周年を迎えますが、35年にわたって愛されて続いてきたのは、まさに「点」ではなく「線」で繋がってファンを積み上げてきた結果です。
「線」で繋げる方法は必ずしもデジタルマーケティングだけの役割ではありませんが、「線」の重要性を理解できると、今回お話したデジタルマーケティングに対する考え方も変わります。