こんにちはトロネコです。
広告宣伝でよくみられるROASとROI
基本的なことは知っているけど、一般的なROASとROIの概念や考え方をそのままゲームビジネスに持ってくると間違った判断をしてしまいます。
どういうことかというと
運用型オンラインゲームサービスの場合、一般的なROASでの広告運用は本質的な意味でマッチしないことが多いからです。
つまりゲーム事業の特徴を考えると
一般的なROASとROIの概念や考え方をそのまま持ってこれない、そのまま使うと間違った判断をしてしまうことが多いのです。
そこで、今回はPCオンラインゲーム、スマホゲームアプリビジネスに特化した形で
ゲーム事業におけるROASとROIの概念や考え方について解説します。
ROASとは?計算式は?
まず最初に一般的なROASについてご説明します。
ROASとはReturn on advertising spendの頭文字を取った言葉であり
かけた宣伝費で得られた売上の割合をパーセンテージで表現したものです。
ROAS = 広告経由売上÷宣伝費×100
数字はパーセンテージで出されます。
例えば、出稿した広告経由での売上が1000万円だとします。
そして出稿した広告費を500万円とすると
ROAS=1000万円÷500万円×100=200%となります。
なお、広告経由での売上は必ずGrossではなくNetを使います。
ゲーム事業におけるGross(グロス)とは売上金額そのものを指します。アプリストアでの売上、自社サービス上での売上が該当します。
Net(ネット)とはGrossから手数料を除外したものをゲーム事業では指します。アプリストア手数料、ロイヤリティ、インセンティブフィー、許諾費用、使用料、消費税など売上に対して何かしら決まっているトップオフの金額を除外したものがNetになります。
アプリストア経由での売上の場合は、アプリストアで30%の手数料が取られますので
Grossが1000万円の売上でも、Netは700万円になります。
もちろん、それ以外で売上に対して除外する金額があれば除外します
このNetを算出する上で下記を除外するのが基本的な考え方になります。
・アプリストアの手数料30%
・消費税
・ロイヤリティ、インセンティブ、版権使用料など売り上げに対して自動的にトップオフするもの
Net売上ではなく、Gross売上でROASを計算している現場をたまに見かけますが、これは大きな間違いですので注意しましょう。
なぜなら、ゲームタイトルの座組、内訳次第では1000万円の売上があっても、さまざまなトップオフ、除外金額が存在するため売上のほとんどが利益にならない場合もあるからです。
そんなこと、ありえないよ・・・と思うかもしれませんが
実際に利益にならないような事業スキームが勝手に組まれて現場に落ちてくることもあります。まぁ・・・現場は地獄ですよねw
ちなみにROASの目標値(=合格点)としては
一般的に最低200%以上、300%から500%程度を目標設定するケースが多いのですが、これは業界によって大きく異なります。
厳密にはゲーム業界の中でも自社のゲームの中身(どういう収益構造になっているか)、そのゲームをプレイするユーザー属性、そのゲームのプロダクトフェーズ(配信直後か?末期か?)、そのゲームをプレイしてくれるターゲットユーザーの市場における獲得残存数
などさまざまな要素が影響します。
よって
200%が適切なのか?それとも300%なければならないのか?500%でもダメなのか?
正解はないので、自分たちのゲームタイトルに応じて目標設定を決める必要があります。
つまり自社で5本のオンラインゲームを運営していたとします。
それぞれサービス運営期間、ゲームジャンル、ユーザー属性、市場状況は異なるので、横並びで「ROAS300%が合格基準です!!」と設定できません。
なお、この式が基本となり、「広告経由での売上がいくら必要?」「適切な宣伝費はいくらなのか?」といった場合に次のような式でも算出できるようになります。
広告経由売上 = 宣伝費×ROAS÷100
宣伝費 = 広告経由売上÷ROAS÷100
ROIとは?計算式とは
続いてROIについて一般的な意味と計算式についてご説明します。
ROIとはReturn on Investmentの頭文字を組み合わせた言葉であり、かけた宣伝費で得られた利益を示す指標です。その広告という名の投資は利益を出せているのか、判断する指標として使えます。
ROI=広告経由利益÷宣伝費
となります。
例えば以下のような式が成立します。
ROI1.0 = 1000万円(広告経由利益)÷1000万円(宣伝費)
ROI2.0 = 1000万円(広告経由利益)÷500万円(宣伝費)
ROI0.5 = 1000万円(広告経由利益)÷2000万円(宣伝費)
ROIにおける広告経由利益とは、その広告経由で獲得したユーザーが、一定期間の間においてそのゲームの中でもたらした客単価である
LTV(Life time value)顧客生涯価値
という値を使います。
1ひとりのユーザーの一定期間におけるゲーム課金額を、無課金、課金ユーザーを合算して平均値を出したものがLTVです。
ただし、ゲーム事業の場合、特に運用型オンラインゲームの場合は一般的なLTVの概念と比べて大きな違いがあります。
それは
F2Pのゲームの場合、ゲーム開始直後に課金するか?半年後に課金するのか?毎日、どのように課金して課金額が積み上がっていくのか、さまざまな要素が複雑に絡み合って変化する特徴があります
・ゲームジャンル×ゲームコンセプト×ゲームシステム×ゲームマネタイズ
・そのゲームを好むユーザーの属性(可処分時間×可処分所得)
・競合タイトル × 季節や市場変動(商戦期か閑散期か) × ゲーム運用の中身(ガチャモチーフなど)
そこで
ゲームアプリ事業の場合、ゲームをインストールしてから一定期間の間でゲーム内で使用された平均客単価をLTVとします。
具体的には
例えばアプリ配信初日にインストールした1000人のユーザーが(離脱ユーザー、継続ユーザーを含む)180日の間に使った平均客単価をLTVとするケースがゲームアプリビジネスでは多いです。
180日=30×6ヶ月間=そのゲームアプリのプロダクトサイクル
とするわけです。
ただしゲームアプリの中身やそれを遊ぶユーザーの属性によって180日が適切なのか?
という疑問がありますので
30日、60日、90日、120日、150日、180日・・・・と言ったように一定の期間におけるLTVを算出します。
30日なら30dayLTV、180日なら180dayLTVと表現します。
30dayLTV | 60dayLTV | 90dayLTV | 120dayLTV | 150dayLTV | 180dayLTV | |
タイトルA | 50円 | 100円 | 150円 | 200円 | 250円 | 300円 |
タイトルB | 100円 | 200円 | 500円 | 1000円 | 1200円 | 1500円 |
例えばこちらの数字はダミーですが、日数経過とともに使ったゲーム内課金は積み上がっていくので180dayLTVが最も累積の合計金額は高くなります。
でも前出のさまざまな条件や要因によって積み上げっていくLTVのカーブはタイトルによって異なります。
なお、LTVも算出する上でROASと同様にGrossではなくNetを使用します。
ROASが「売上」から算出される数値である一方で、ROIは「結局のところ儲かるの?儲からないの?」といった事業判断をある一定期間において判断できます。
ROASとROIの違い
さて、ここからはROASとROIの違いを解説していきます。
すでに、ここまで読み進めていただいた時点で違いについて理解できている人も多いと思いますが、改めて違いを解説します。
ROASとROIの違いはシンプルです。
ROAS:かけた広告に対する売り上げの比率
ROI:売上ではなくかけた広告に対する一定期間における利益のリターン
もう少し踏み込むと
ROASは広告担当視点であり、後者がゲーム開発視点、プロデューサー視点、事業責任者視点と言っていいでしょう。
ROASは広告運用だけにフォーカスしていますが、ROIは事業の収益性、健全性までフォーカスします。
もう少し踏み込むと、広告でユーザーを獲得した結果、売上が上がるのではなく、広告で獲得したユーザーが売上を上げるか?否か?はゲームの中身、ゲーム運用が影響します。
あくまで広告はゲーム事業の手段の一つに過ぎません。
ROIまで踏み込むと物事の本質が見えてくるというわけです。
PCオンラインゲーム、スマホゲームアプリのような基本プレイ無料の運用サービスの場合、アプリインストール直後に全てのユーザーが課金をするわけではありません。
そして課金するかどうかは
・ゲームシステムの設計
・そのゲームを好むユーザー属性
・ゲーム運用の中身、その他プロモーション活動、可処分所得や可処分時間が影響する商戦期、休暇などのタイミング、季節変動などによる要素など
さまざまな要素が絡み合うため、ROASだけで判断していても、本当に広告がダメだったのか?わからない部分があります。
そう言った意味で、実はゲームビジネスにおいてROASは不適切なのですが、多くのゲーム会社の現場ではROASが用いられています。
ゲームビジネスにおけるメリットとデメリット
ここまでの話を聞くと、ROASよりROIの方がいいよね。
と思うかもしれません。
でも実際のゲーム事業における広告運用の現場ではROASを使っている現場は多いのです。その理由も踏まえてメリットデメリットについて解説していきます。
ROASのメリット
・広告出稿に対して売上が上がるというシンプルな評価軸で短期間に効果測定できる
・売上に対する変動要因が少ないシンプルなゲームや、シンプルなビジネススキームのゲーム事業の場合は運用しやすい(例:ハイパーカジュアルゲーム、パズルゲームなど)
・ゲーム開発、ゲーム運用に踏み込まなくても広告部門だけで主導して効果測定できる
ROASを使う場合、ゲームの中身とか仕組みとか、LTV、継続率とか、あまり考える必要はありません。広告運用担当の多くはゲーム開発者ではなく、宣伝業界の人なので、ゲームを深く知らなくても広告運用の評価ができるというメリットは大きいです。
ROASのデメリット
・ROASの数値は良好でもゲーム事業として利益が出ているとは限らない
・スマホゲーム、PCゲームのようなF2P運用型タイトル場合、広告出稿タイミングと売上が連動せず、複雑に変化する。
変動要因の一例
└ゲームのプロダクトフェーズ(配信日からの経過日数)による獲得ユーザーの属性の変化と商品劣化による売り上げの変動
└ゲームの設計による課金マネタイズポイントの違い
└新しいチャ実装、マネタイズ内容、ゲーム内イベント、商戦期などの変動要因
└そのゲームをプレイするユーザー属性による課金モチベーションの違い
└広告媒体、広告クリエイティブによる獲得したユーザー属性の違い
・ROASは広告で売上を上げるという広告視点だが、売上はゲームの中身で決まるので、ゲームの中身や、本質的なゲーム事業の改善に踏み込みにくい
結局のところROASだけではゲーム事業の本質はわからないし、広告でユーザーが取れなくなってくるとROASの数字があまりにもバイアスがかかってしまうので使えなくなってきます。
またROASを採用している以上、ゲーム開発と広告運用の間に存在する壁(役割分担)みたいなものが生じてしまい、本質的な課題の解決ができなくなる現場は多いです。
ROIのメリット
・利益ベースで広告やユーザー獲得施策の評価ができるため、投資に対してどれだけ儲かったかわかる
・ゲーム開発費、ゲーム運用費、宣伝費などの全ての投資を合算した評価ができる
・ゲーム開発と宣伝部門がワンチームになって連携しながら事業を推進できる
・ROIはLTVをベースに算出するためゲームの「プレイモチベーション」「課金モチベーション」に関わるKPIと改善に意識が向くので本質的な課題解決に近づく
ゲーム事業の本質は「売上」ではなく「利益」です。なぜならゲーム事業は投資活動だからです。成熟したゲーム会社の多くはROASでは本質が見えないことを知り、ROIに注力するようになります。
ROIのデメリット
・ゲーム開発、ゲーム運用、宣伝マーケティングで連携をとる必要があるため時間と人的リソースがかかる
・ゲーム開発サイドで詳細なKPIの抽出と分析ができる体制構築が必要(ゲーム設計、KPIツール、アナリストの存在など)
・ROIを算出するために必要な実績LTVの算出にはゲーム配信開始から時間がかかるため、サービス直後は仮説によるLTVをもとにROIを算出する必要があり、経験値のある会社とない会社のギャップが出る
ROIに踏み込むということは、ゲーム開発と広告運用担当、マーケティング、宣伝とゲーム運用担当、分析担当などあらゆる部門がワンチームになって、みんなでゲーム事業の成功を役割や役職関係なく熟考する体制を作ることなのです。人も時間も、スキルを持った人材やモチベーションや技術力など、さまざまなハードルが存在します。
ゲーム会社によって異なる!?ROASとROIどっちが重要か?
ここまでの話で、ROASとROI、それぞれメリットとデメリットがあることが理解できてきたと思います。
ならば、どっちを選択すればいいのか?
どっちがおすすめなのか?
と言う疑問が出てくると思います。
結論としては、どっちを重視するか会社の方針として決める(キメの問題です)
ただそれだけです。なので、これまでの話を踏まえた上でどっちを選ぶか決めてください。
決める上では
開発チーム、宣伝マーケティングの人材や組織体制、実現可能性、会社として求めるもの(売上重視か利益重視か?)など、会社としてどうしたいのか?という意思が大きく影響します。
ただし、一つお伝えするならば
ROASは評価方法がシンプルで簡易的なので、ゲーム開発、ゲーム運営に踏み込めない、広告に特化した組織主導では使いやすい指標です。よって採用している宣伝部門は多いです。
でも結局のところ、最近のゲームは新規タイトルがヒットしにくく、既存タイトルをどうやって回して延命させて行くのか?ゲーム事業は成熟に向かいつつあります。
そうすると、やがてROASではなくROIというLTVまで踏み込まないと事業として解決できない状況になります。(そういう現実にいずれ気づくことになります)
なので最終的にはROI、LTVの世界に踏み込まざるをえないというのがトロネコの結論です。
ROASを重視するゲーム会社とROIを重視するゲーム会社の特徴
今まで様々なゲーム会社で、様々なチームと仕事をしたり
独立してからも様々なゲーム会社と仕事をしてきました。
その結果、思ったのはROASを重視するゲーム会社と、ROIを重視するゲーム会社では次のような会社としての特徴があることに気つきました。
もちろん例外もありますが、結構、当てはまるケースが多いのです。
ROASを重視するゲーム会社の特徴
・マーケティング、宣伝部門と開発部門が分離している(役務が分かれている)
・広告部門の責任者や現場はゲーム開発、ゲーム運用に対する知識がない
・広告で売上という数字を上げることが広告部門の役割だと思っている
・自社で広告運用をせず、外部の広告会社に任せている(インハウスではなくアウトソーシング)
ROIを重視するゲーム会社の特徴
・マーケティング、宣伝部門と開発部門が一体化してワンチームになっている
・広告部門であってもゲーム開発、ゲーム運用に対する関心や知識を持ち、開発部門であっても広告に対する関心や知識が止まらない
・PCゲーム、スマホゲームはゲームサービスが主役であり、広告はあくまでもユーザー獲得の手段にすぎない。ゲーム本編でユーザーをどう遊んでもらい課金してもらうか、楽しんでもらった結果、ゲーム事業他成立していることを全てのメンバーが理解している。
ROASを採用している会社をディスっているわけではありませんが、ROASという考え自体が広告視点での指標なので、開発チーム、運営チーム、経営層との分離されている印象はどうしてもあります。
とはいえ、まだROASを採用している会社の方が多く、ROIを重視している会社が少数かもしれません。
でも、広告担当もゲーム開発、運用を知るべきだし、事業の決裁権を持つ責任者は広告、開発、マーケティング・・・あらゆる知識を持ち備えているべきだと思います。
知識と経験を持っていれば、ゲーム事業の成功のために何が必要なのか?何をすべきか自然と溢れ出すように物事が進むようになりますよ。
まとめ
広告手動で売上を上げるという点においてはROASは評価指標としてシンプルなので使えます。
でも単発商品の販売や、リピート販売も期待できる売り切り型の商品ならまだしも、基本プレイ無料で、いつ売れるかわからないゲーム内課金型の運用型サービスの場合は、ROASを採用することで本質から外れてしまうリスクがあります。
これらメリット、デメリットを踏まえた上でROASとROIをうまく使い分けるようにしましょう