ゲーム事業の判断マニュアル|経営層と事業責任者のための企画・配信・運営・終了判断

こんにちはトロネコです。
ゲーム事業の判断は様々なフェーズで必要です。
・本開発へ進む
・配信する
・追加投資するか、縮小する
・サービスを終了する
始まりから終わりまで、長期にわたって判断の連続です。
一方でゲーム会社では、現場、プロデューサー、役員、事業責任者の人員流動が多く、開発期間が長いタイトルほど、最初に判断した人と途中で判断する人が違うことも珍しくありません。
つまり、判断基準が曖昧だと
・売るべきタイミングで売れない
・終了判断が遅れて負債が増える
といった問題が起こります。
そこで、今回はゲーム事業における判断を
・つくる判断(Build Decisions)
・とどける判断(Launch Decisions)
・とどけつづける判断(LiveOps Decisions)
の3つで解説します。
つまり、この内容は「ゲーム事業の判断マニュアル」として使えます。
現場実務の手順書ではなく経営層と事業責任者が、どの局面で何を決めるべきかを確認するための判断マニュアルなのです。
このマニュアルがおすすめの人

この「ゲーム事業の判断マニュアル」のターゲットユーザーは次のような方です。
・経営層
・事業責任者
・執行役員
・ゲーム事業管掌
・取締役会に説明する立場の人
社長が一人で全部判断する会社もありますが、実際には、執行役員や事業責任者が実質的に判断し、取締役会が承認する形も多いはずです。
そのため、「経営者向け」だけではなく、経営層と事業責任者の両方が使えるマニュアルです。
このマニュアルで扱うこと、扱わないこと
最初にこの「ゲーム事業の判断マニュアル」で扱うこと、扱わないことを整理します。
扱うこと
・どの局面で何を判断するか
・どこでプロジェクトを止めるか
・短期の数字と長期のROIをどう両立して見るか
・人が変わっても判断軸が崩れないようにするにはどうするか
扱わないこと
・現場の細かい開発手順
・広告運用の細かい実務
・KPI定義の細部
・サービス終了時の実務フローの詳細
ゲーム事業が失敗するのは判断が遅れた時
ゲーム事業が苦しくなるのは、売上やKPIが悪いだけではありません。
本当に危ないのは、判断が遅れる時です。
たとえば、こんなケースです。
・ここで勝負をかけるべきタイミングでアクセルを踏めず商機を逃す
・配信後に終了判断が遅れて負債が増える
・ここまで使った費用が惜しくて止められず、負債が増える
・現場が行き詰まっても、トップが判断できない
実はゲーム事業では
やる判断より、やめる判断のほうが難しい局面があります。
だからこそ、どこで止めるか、撤退するかを先に決めておく必要があります。
短期の数字と長期ROIをセットで判断する
運営型ゲーム事業では、毎月、四半期、半期、通期ごとの判断が必要になります。
月次売上、DAU、継続率、課金率などを確認しながら、施策や投資の判断を進めていきます。
でも本当に重要なのは

そのタイトルが3年、5年、10年の運営を通じてどれだけ利益貢献できたか、投資に対してどれだけのリターンがあったかです。
今月の売上が良くても、無理な売り方で継続率やユーザー体験にダメージがあれば、最終的なROIは悪化することがあります。
つまり、今の数字を守る判断が、長期の利益を損なうことがあるのです。
よって経営層と事業責任者は、短期の数字と長期のROIを切り離して考えるのではなく、両方をセットで判断する必要があります。
組織が変わっても、判断軸がブレないようにする
ゲーム会社は、人の入れ替わりが激しい業界です。
現場、プロデューサー、役員、組織も数年で変わることがあります。
よって開発期間が長いタイトルでは、最初に判断した人と、途中で判断する人が違うことが珍しくありません。
運営タイトルは、売上や継続率などの実績が日々あるため、人が変わってもおかしい判断をしにくい部分があります。
一方で、開発中タイトルはまだこれからなので、決裁者の理解や価値観、好みで判断がブレることがあります。
これは良い方向に働くこともありますが

例えば、ゲームを深く理解していない人がコスト感、数字だけで判断するとタイトルの将来を大きく損なうこともあります。
よって必要なのは
個人の感覚に依存した判断ではなく
会社として何を基準に判断するのかという点です。
つまり組織として決裁プロセスを作り、人が変わっても判断軸が崩れにくい状態を作り上げる必要があります。
3つの判断プロセス早見表

ゲーム事業における「3つの判断プロセス」をまとめると次の通りになります。
全体像を確認したい方は、下の早見表をご覧ください。
| 判断プロセス | 決めること | 止める判断 | 判断タイミング |
|---|---|---|---|
| つくる判断 | 企画を通す、本開発へ進む、売る前提を確認する | 開発をやめる | 企画、プロトタイプ、α版前後 |
| とどける判断 | 配信する、今売る、どの市場にどう出すか決める | 配信を見送る | β版前後、マスター版前後、配信準備 |
| とどけつづける判断 | 続ける、改善する、追加投資する、縮小する | サービスをやめる | 配信後、月次、四半期、大型更新前後 |
ここからは、それぞれの判断プロセスを順番に解説していきます。
開発フェーズ名は会社ごとに違うため、あくまでも「判断タイミング」は目安になります。
ゲーム会社では、次のような呼び方が使われますが、この定義や期間もゲーム会社によって異なります。
・プロトタイプ
・α版
・β版
・マスター版
・配信
・配信後
そのため本記事では、フェーズ名そのものよりも、どの節目で何を判断するかを重視して話を進めていきます。
ゲーム会社経営における3つの判断プロセス

① つくる判断(Build Decisions)
「つくる判断」は、単に企画を通すか、という話だけではありません。
本開発に進めるか、発売時点で勝負になるか、途中で止めるべきかまで含みます。
つくる判断で決めること
・ゲーム企画を通すか
・誰に売るか
・市場と競合タイトルの分析は妥当か
・コアゲーム体験があるか
・本開発に進むか
・開発をやめるか
・発売時に市場で勝負できるか
この判断を置くタイミングの目安
・企画段階
・プロトタイプ段階
・α版前後
・本開発継続判断の節目
今の市場ではなく、発売時点の市場で判断する
新規ゲームの企画や開発では、今の市場やニーズ、競合タイトル、トレンドを重視しがちです。
もちろんそれ自体は必要ですが、開発に2年、3年かかるゲームでは、それだけでは不十分です。

本当に見るべきなのは、発売時点で求められる商品力です
今のトレンドを基準に企画を通してしまうと、2年、3年後の発売時には競争力がないゲームが完成することがあります。これでは勝負になりません。
未来を予測するのは難しいのですが
2年後、3年後にどのくらいの品質が求められるかを考えて開発する必要はあります。
ここを考慮せず、今の売れ筋だけで判断するとゲーム事業としてはリスクがあります。
開発費は今の感覚だけで決めてはいけない
開発費も同じです。
現在の感覚で「高い」「安い」と判断すると、間違えることがあります。
本当に見るべきなのは
2年後、3年後に必要な商品力を満たすための開発費として適切かどうかという点です。
・予算不足のまま進めると、商品力が足りない
・でも、過剰投資すれば投資の回収が難しくなる
大事なのは、発売時点で戦える商品を作るために適切な費用かどうかで判断することです。
つくる判断でよくある失敗ケース

つくる判断でよくある失敗については次のようなものがあります。
・面白さが曖昧なまま進む
・現在の市場だけで企画を決める
・回収ラインが見えないまま本開発に入る
・ここまで作ったから止められないといった間違った判断をする
・2年後、3年後に必要な商品力を想定できずに開発する
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企画とプロトタイプ段階の判断をさらに深く見たい場合は、こちらもあわせて読んでください。
② とどける判断(Launch Decisions)
「とどける判断」とは、宣伝、プロモーションだけではありません。
いま売るべきか、どこにどう出すか、広告費をどこまで使うかまで含みます。
とどける判断で決めること
・いつ配信するか
・今売るべきか
・どの市場にどう出すか
・何を強みとして訴求するか
・広告費をどこまで使うか
・配信を見送るか
この判断をするタイミングの目安
・β版前後
・マスター版前後
・配信準備段階
・事前登録、本番配信前
とどける判断で確認したいこと
・ストア訴求
・クリエイティブ
・獲得単価
・ユーザーの初動継続率
・初期のゲーム売上
・投資の回収見込み
・どの地域で勝負するか
売るべき時に売れないのも判断ミス
日本のゲーム会社は、「つくる判断」は比較的、柔軟な判断ができる一方で、ここでコストをかけて売るべきタイミングで、アクセルを踏めず商機を逃すことがあります。
・もっと仕上げたほうがいいのではないか
・広告費を使うのが怖い
・今じゃないかもしれない
こうした迷いが悪いわけではありません。
ただし、ここでアクセルを踏むべきなのに萎縮するなら、それも経営における判断ミスです。
逆に、今じゃないのにアクセルを踏むのも危険です。
重要なのは「やる、やらない」ではなく、今の状態でどこまでやるかを判断することなのです。
「とどける判断」でよくある失敗ケース
「とどける判断」でよくある失敗として次のようなものがあります。
・出すべきタイミングで萎縮して機会を逃す
・CPIだけ見て経営判断する
・配信後に何とかなる前提で見切り発車する
・売るべきタイミングでアクセルを踏めず、商機を逃す
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広告判断や獲得KPIを詳しく確認したい場合は、こちらをどうぞ。
③ とどけつづける判断(LiveOps Decisions)
「とどけつづける判断」は
何を改善するか、追加投資するか、縮小するか、サービスを終了するかまで含みます。
「とどけつづける判断」で決めること
・サービスを続けるか
・どこを改善するか
・新規、既存、復帰ユーザーのどこを重視するか
・追加投資するか
・事業を縮小するか
・サービスをやめるか
「とどけつづける判断」が必要なタイミングの目安
「とどけつづける判断」は次のタイミングで行います。
・配信初期
・月次、四半期
・大型アップデート前後
・サービス継続、縮小、終了判断の節目
コア体験の変更は開発現場だけで決めてはいけない
既存運営中のゲームでは、次のような更新があります。
・リニューアル
・ゲームバランスの変更
・コア導線の見直し
これらは「イベント実装」「ガチャ更新」「キャラ追加」とはゲーム事業における判断の重さが違います。
なぜなら、ゲームのコア体験そのものに影響するからです。
このような判断は反映直後の売上だけを見ると、良い数字になることがあります。
しかし実際には、その変更が1年後、2年後の継続率やゲーム寿命に影響し、最終的なROIまで変えることがあります。
だから、こうした変更を現場だけで決めるのは危険です。
コア体験に触る更新は、経営層と事業責任者が関わるべき判断です。
短期売上だけでは、更新の良し悪しは判断できない
ゲーム事業の場合、どうしても今月、今期といった短期的な数字ばかりおいがちです。しかし、短期的な売上だけを見ると、判断を誤ります。
短期で売上が出ても、それ自体が無理に作られた数字であることも多いからです。その結果、長期的なゲームの価値を壊すことがあります。
もちろん、売上が落ちたタイトルに対して、すぐにサービス終了を選択する必要はありません。
しかし、追加開発費、運営費、宣伝費をどこまで使うかを見直さず、惰性で続けるのは危険です。

重要なのは、続けるかやめるかの二択ではなく、どこまで縮小して続けるかを判断することです。
運営型ゲームでは、
・今四半期どうだったか
・その判断が1年後、2年後の寿命にどう響くか
・最終的に累計ROIがどうなるか
これらを一緒に見なければなりません。
なぜなら、スマホゲームのような運営型ゲーム事業は長期にわたって利益貢献できるかが重要であり
その評価は5年、10年運営した結果、行われるものだからです。
1年目が良くても5年目で累計赤字ならマイナス評価です。
「とどけつづける判断」で見るべきKPI
「とどけつづける判断」で見るべきKPIは次のようなものがあります。
・DAU/MAU
・D7/D30
・課金率
・ARPU/ARPPU
・売上推移
・投資の回収進捗
・追加投資効率
・縮小・終了ライン
「とどけつづける判断」で起きやすい失敗
「とどけつづける判断」でよくある失敗として次のようなものがあります。
・売上だけで続行判断する
・赤字なのに「次の更新で変わる」と先送りする
・短期売上だけで評価する
・終了判断が遅れて負債が増える
・コアゲーム体験に関わる変更を、反映直後の売上だけで評価する
配信後の改善や運営KPIは、下記もあわせて確認してください。
属人的判断になりやすい場面

これら「3つの判断プロセス」は組織として行う必要があります。
特に開発中タイトルは実績がまだ出ていないため、判断者の経験や好み、コスト感で方向が変わりやすく、属人的な判断の影響を強く受けがちです。
でも属人的に判断をしてはいけません。なぜなら次のようなデメリットがあるからです。
| 場面 | 属人的になりやすい理由 | 必要な対策 |
|---|---|---|
| 開発中タイトル | 実績がなく、判断者の好みでブレやすい | 判断基準を文書化する |
| 人事異動直後 | 前提共有が抜けやすい | 決裁時の確認項目を固定する |
| コスト圧縮局面 | ゲーム理解より短期収支が優先されやすい | 長期ROIも同時に確認する |
| コア体験変更 | 直後売上だけで良し悪しを見やすい | 1年後以降の影響も見る |
属人的になってしまうと「感覚」や「好み」「過去の成功体験」だけで判断されがちです。
また人が変わると判断軸も変わります。それによってゲーム会社として適切な判断ができず、うまくいかないケースが多いのです。
経営層が最低限、持っておきたい判断材料
経営層が最低限、持っておきたい、揃えておきたい判断材料としては次のようなものがあります。
これを基準に「3つのプロセス」で判断をすることでブレを軽減できます。
つくる判断で必要なもの
・市場
・ターゲット
・競合
・コアゲーム体験
・発売時点の競争力
・予算
・投資の回収見込み
とどける判断で必要なもの
・ASO対策
・ゲーム訴求
・訴求クリエイティブ
・獲得単価
・初期ユーザーの継続率
・配信初期の売上
・投資回収の仮説
・どの地域で勝負するか
とどけつづける判断で必要なもの
・ユーザー継続率
・売上推移
・課金状況
・投資の回収進捗
・追加投資効率
・縮小、終了ライン
・コア体験変更の長期影響
判断を鈍らせるよくあるケース
一方でゲーム事業における「判断を鈍らせるケース」としては次のようなものがあります。
・ここまで宣伝費を使ったからプロジェクトを止めたくない
・現場が嫌がるから縮小を言い出せない
・売上やKPIは悪いが次で変わると思って先送りする
・役員や決裁者の変更で判断軸が変わる
・コスト重視でゲームを見てしまい、本当に大切なものを見失う
判断をさらに深く確認したい場合は、次の記事もあわせてご覧ください。
【開発の判断軸】
【スマホゲーム向け】既存タイトル改善マニュアル|継続率・DAU・課金率・売上をどう立て直すか
【既存タイトル改善】
【スマホゲーム向け】既存タイトル改善マニュアル|継続率・DAU・課金率・売上をどう立て直すか
【事業責任者KPI】
【事業責任者/役員向け】スマホゲーム事業のKPI設計ガイド|獲得・継続・収益・回収の重要指標一覧
まとめ
ゲーム事業の判断は、ゲームの企画から、配信、運営、そしてサービス終了まで続きます。つまり日々、判断の連続です。
これら膨大な判断プロセスは
・とどける判断
・とどけつづける判断
この3つに分類することで理解しやすくなります。
これら判断プロセスをまとめると、判断するタイミングは決して特定のタイミングではなく「開発中」「配信前」「運営中」においても存在し、そして「プロジェクトを止める判断」もあるのです。
また、判断に使う数字は「短期の数字」だけでは不十分であり
長期のROIまで含めて見なければ、会社としては正しい判断ができません。
またゲーム会社は人材流動が激しい業界であり、数年で人が入れ替わります。

だからこそ、個人の感覚に依存せず、会社としての判断基準を作る必要があります。
その基準を言語化し、決裁プロセスに組み込んでおくことが、ゲーム事業を属人的にしないために重要です。
トロネコは、こうした判断軸を一緒に整理するご相談もお受けしています。
もし判断に迷ったら、お気軽にご相談ください。


