ゲーム事業とはラーメンと同じ(見た目だけで食欲が湧き、食べたくなるラーメン作りに学ぼう)
こんばんは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
そういえば、先日、こんな話をしました。
この記事でトロネコが伝えたかったことを、まとめると次のようになります。
ラーメン店主(=ゲーム開発)と
いっしょに美味しいラーメン(=ゲーム)をつくり 美味しいラーメンをお客様に届けていく(=プロモーション) その両方(つくる→とどける)のいずれも、マーケターは関わっていかないと戦えない時代になりました。 |
でも、かつて、このような話をゲーム開発者にしたら
賛同していただいた上で、こんなことを言われたことがあります
ならば我々ゲーム開発者は面白いゲーム(=美味しいラーメン)をつくります
遊んでいただければ(=食べていただければ)必ず、楽しいと感じてもらえるゲームを(=満足できるラーメンを)作りますよ!
一見、この言葉はありがたい言葉なのですが
しかし、実はここに大きな落とし穴があるのです。
長年、トロネコはゲーム業界でマーケターをやってきましたが、
食べなければ美味しさが伝わらないラーメンの場合は、まず、なんとかしてお客様に1回でもいいので食べてもらう必要があります。
しかし、食べてもらうにはハードルは非常に高いものです。
なぜなら、
食べたら美味しいラーメンの最大の欠点は、見た目は美味しそうに見えないからです。
見た目が美味しくなさそうなラーメンを食べてもらうことはできなくはないけど、お金も労力もかかります。
一方で多くの人気ラーメン店が作っているラーメンは
「食べれば、必ず満足できるラーメンだけど」
「食べなくても、見た目だけで食べたくなるラーメン」
なのです。
実はゲームビジネスにおいても、これが非常に重要です。
スマホゲームだけでなく、家庭用ゲームでもこれが本当に重要なのです。
今回は、「食べなくても、見た目だけで食べたくなるラーメン」がどれほど重要なのか
そして
「見た目はまずそうだけど、食べたら美味しいラーメン」ではビジネスとして成功しにくい
という、さらに踏み込んだ話をしたいと思います。
遊ばなければ「面白い」が伝わらないゲームは売れない
その昔、家庭用ゲームで体験版プロモーションが購入に結びつく有効な施策として重宝された時代がありました。
その結果、2000年には下記のような施策が多様されました。
・プレイステーションポータブルの時代は体験版が収録されたUMDというディスクを量産して、配布して体験してもらったり
・その後、プレイステーションストアが登場するとオンライン上で体験版をダウンロードして遊んでもらったり
・店頭のゲームショップで体験会を実施したり
体験版を通して、まずは遊んでもらうことで、そのゲームの楽しさを実感してもらい、ゲームを購入してもらおうという施策でした。
時代は変わり、スマホゲームになると、基本プレイ無料で誰でもアプリストアからダウンロードできるようになり、それ自体がある意味「体験版」のような役割を果たしています。
基本プレイ無料のスマホゲームって「体験版の進化系」みたいな感じなんですよ。
しかし、家庭用ゲームの体験版や、基本プレイ無料のスマホアプリや当たり前の時代なった現在において、体験版や、スマホアプリを配信しただけでは遊んでもらえなくなりました。
なぜかというと、あまりにも市場に商品が溢れかえってしまって、その中で
「見た目で遊びたくなるだけのパワーがないゲームは
たとえ無料であっても見向きもされなくなったから」
それでも多くのゲーム開発者(ゲームマーケターもそうですが)はこう言います。
このゲームは遊んで頂いたら本当に面白いんですよ
だからとりあえずダウンロードして遊んでみてください
とにかく1回だけでいいのでダウンロードして遊んでもらいたく
このような意図を持ったワードを宣伝やプロモーションに盛り込みながら様々な手段で発信していきます。
しかし
「遊んでみなければ面白さがわからない、見た目は魅力的に見えないゲーム」は
ユーザーのハートを射止めることは難しいものです。
ラーメンに例えるならば
「見た目は普通、でも食べたら美味しい」
というラーメンを食べてもらうのは難易度高いですよね。
見た目は普通なので、見た目だけでは勝負できません。
そんな見た目のラーメン(ゲームアプリ)は世の中にたくさん存在しますので埋もれてしまいます。
そこで、写真加工したり、見せ方を変えたり、おまけをつけたりして試行錯誤をして、なんとか食べてもらう、遊んでもらう必要がありますが
一方で
「見た目だけで圧倒的に食べたくなるラーメン」と比べると、最初の1杯を食べてもらう勝負においては100%勝ち目はありません。
これがゲーム業界にも当てはまるというわけです。
「見た目は3年前のスマホゲーム、特徴もなし、むしろ地味」「だけと遊んだら面白い」
こんなゲームは、遊んでみたら面白いかもしれません。
しかし、膨大な無料ゲームが存在する世界において、この時点でもう遊んでもらえるか可能性は低いのです。
「遊んだら1分で面白さが実感できる」ならまだしも
「30分くらいプレイするとようやく面白さがわかってくる」
ようなゲームだと、そこまでユーザーを引っ張り続けるのはマーケティングでも難しい話なのです。
最初の一口は不味いけど、30分かけて全部食べたら美味しいラーメンが、もし存在するなら、そんなラーメンは売れるはずわけないですよね
見た目で遊びたくなるゲーム作りが必要
よってゲーム開発において重要なことを整理すると
ゲームの中身が面白いのは当然
でも1度そのゲームのスクリーンショットやPVが目に入っただけでも
見た目が面白そうで遊びたくて仕方なくなるようなゲーム開発が必要ということになります。
それくらいでないと市場では戦えないのです。
このような話は家庭用ゲーム会社の開発者は理解してくれる場合が多い印象です。
しかし、スマホゲーム会社の開発担当で、かつゲーム開発の出身でないプロデューサーとこのような話をしても、なかなか理解しにくい場面に遭遇します。
なぜなら、彼らは「遊んだらわかる面白さだけで勝負できる」と勘違いしているからです。
なぜ、そう信じているのかというと、ガラケー時代の成功体験や、スマホゲーム初期における成功体験がそうさせているのかもしれません。
でも、これからの時代は
「明らかに見た目で面白そう」
という家庭用ゲームにも匹敵するリッチなゲームが当たり前になっていきます。
もうこれは避けようのない話でして
「見た目だけで遊びたくなるゲーム」が世の中に出す最低条件となります。
見た目で遊びたくなるゲーム開発はROI思考からは作れない
なぜ、スマホゲーム会社と、家庭用ゲーム会社のゲーム開発プロデューサーでは「ゲームの見た目」に対する認識のズレが生じるのでしょうか。
実は両者には「効率優先(ROI思考)」に対する大きな思考のズレがあるからです。
わかりやすい例を挙げてみましょう。
【家庭用ゲーム出身のゲームクリエイター】
ゲームとは無駄なこだわりこそファンを魅了する
【ゲーム出身でないスマホゲーム開発プロデューサー】
ゲームとは売上に繋がる機能や要素から構成されており売上に直結しない要素は不要である
例えばゲームで新しい機能を実装する際にも
家庭用ゲーム出身のゲームクリエイターなら「その機能はファンの満足度に繋がるし、面白いから実装する」という議論になるのですが
ゲーム出身でないスマホゲーム開発プロデューサーなら「その追加機能実装で売上はいくらあがるの?あがらないなら実装できない」
となるわけです。
ちょっと極端な例に聞こえるかもしれませんが、スマホゲーム会社の方が、追加機能を判断する際に、いくら売上があがって、利益を出せるのかROI思考に染まってしまうことが多いのです。
前者はゲーム開発的発想
後者はゲームではなくてWebサービス運営に近い発想
とも言い換えることはできるかもしれません。
ゲームって面白さの塊のようなものであり、効率的に箱を作ればいいわけではありません。
しかしガラケーやスマホゲーム初期に効率とROI重視で事業判断をした結果、成功を収めてしまった経験もあり、ここから抜け出せないと
「見た目はつまらなそうだけど、遊んだら面白いゲーム」
を作ってしまうことになります。
なぜなら見た目の豪華さ魅力は「ゲームではなくてWebサービス運営に近い発想」においては無駄ですし、それだけで売上や利益は上がらない過剰な開発コストと彼らは考えがちだからです。
この効率重視、ROI重視の考え方は通用した時代があったのですが、現代はどの会社も家庭用ゲーム並みに「見た目だけでもユーザーの興味を惹けるゲーム」を作っています。
もうこれからは通用しないですし、戦いになりません。
誤解をしないように補足するとROIという考え方はビジネス上、とても重要です。だからマーケターとしてはROIを無視することはできません。
でもROIだけで物事の判断をするとゲーム事業の場合はうまく行かないのです。
なぜならゲームは人間の感情を動かすエンタメだからです。
それについて最後にお話します。
まとめ:これからは無駄なことができるゲーム会社が生き残る
最後にすごくシンプルな話をするとこれからのゲーム事業は
「無駄」なことに「こだわって」ゲームをつくれる会社が生き残れます。
これはゲームとしては極めて健全な考え方であり
ゲームとしての原点に戻ったともいえます。
なぜなら、そもそもゲームとは無駄なことの集合体だったからです。
ソシャゲの登場によって、課金売上がゲーム事業の目的になったことで、課金売上に繋がらない「無駄」を削ってきました。
一方で売り切り型ビジネスの家庭用ゲームソフトでは「無駄」を削ったゲームは売れません。
でもスマホゲームでは「無駄」を省いた最適化でも戦える時代があったのです。しかし、スマホゲーム市場が成熟し、家庭用ゲームとの差分がなくなっていく中でこれからはゲームの原点に立ち戻る時代になります。
・無駄にリッチなグラフィック
・無駄にリッチなサウンド、ボイス
・無駄にリッチな演出
これによって開発費はさらに高騰するでしょうが、そうでないと勝てないし、それができるゲーム会社しか生き残れない時代なのです。
そういう無駄なことが
「食べなくても、見た目だけで食欲が湧き食べたくなるラーメン」
をつくります。
そんなラーメンを作れれば、食べてもらえるチャンスをマーケティングやプロモーションでいくらでも作ることができます。(つくりやすいです)
もちろん「食べたら美味しいラーメンを作ることは大前提です」
そして、それを支えるのは、本物のゲームクリエイターやゲームマーケターなのです。
無駄な部分にこそ人間の感情を揺さぶる要素が満載なのです。
そして機能面など「仕組み」部分だけでは人間の感情は揺さぶることはできません。
もちろんROIとか収益を無視してゲームを作ろう!と言っているわけではありません。でも数値化できない部分にこそ、実はゲーム事業が成功するヒントがあります。
ここにどこまで真剣に向き合えるかは、これからのゲーム事業においては重要なのです。