こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回は大ヒットしたバトロワゲーム「荒野行動」がヒットした理由について、マーケター視点で深く掘り下げます。
成功タイトルの成功要因を深く掘り下げることで、そこから「これから仕掛けるゲームに役立つヒント」を見つけようというのが今回の目的です。
ちなみに、最初にお伝えしておくとトロネコは「荒野行動」の関係者でもありませんし、何かしら内情を知っているわけでもありません。
あくまでもマーケターとして「客観的事実」と「マーケティング知識」を元に成功要因を考察していますので、「実態は違う!」という事もあるかもしれません。その点は予めご了承ください。
「荒野行動」がもたらしたパラダイムシフト(ゲーム業界における常識が変わった)
長年ゲーム業界で働いている人間から見ても「荒野行動」は大きなパラダイムシフトをもたらしました。
パラダイムシフトとはその時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化すること。
■これまでのゲーム業界の常識
・TPS、FPSは限られたファンが楽しむニッチなゲームジャンル
・海外ゲーム(洋ゲー)は一般ウケしない
■ 荒野行動による変化
・TPS、FPSではなく「バトロワ」という新たなジャンルの創造
・海外ゲームに対する固定概念がない、一般ユーザーの取り込みに成功(女性ユーザー含むゲームファンではなく、スマホユーザーの取り込み)
実際のところPCやプレイステーション3以降からFPS、TPSというジャンルは バトルフィールド、コールオブデューティシリーズ を代表作として世界的な人気を得ていました。
FPS、TPSは北米やヨーロッパなど海外を中心としたゲーム好きな人の世界での人気であり、大きな市場規模を持っていたものの、それでも日本では限られた市場であり、まして女性がプレイしないゲームジャンルでした。
これはゲーム業界では常識でしたが、スマホ版「荒野行動」の登場によって状況は一変したのです。
なぜ「荒野行動」はパラダイムシフトを起こせたのか?
「荒野行動」がパラダイムシフトを起こせた要因については幾つかあります。しかし、ここで最も注目すべきことはそれらは「点」ではなく、これから紹介する要因が「線」で繋がって発生したという事です。
①スマホ版のバトロワのファーストペンギンであり、パイオニアになったから
②コミュニケーションツールとしての進化 ③人間が抱く「社会的所属欲求」の構築 |
意識して「線」が作れたのか、結果的に「線」で繋がったのか、ここは当事者でないとわかりませんが、「線」で繋がった「3つの点」についてマーケター視点で分析していきましょう。
①「荒野行動」はスマホ版の「バトロワ」のファーストペンギンであり、パイオニアになれたから
そもそも「荒野行動」はゲームとして圧倒的な面白さがありました。そして、まだスマホ市場に競合が存在せず、結果的にファーストペンギンとなり、市場のパイオニアになれたことで大きな先行者利益を得られました。
「ファーストペンギン」とは敵がいるかもしれない海に最初に飛び込む勇気あるペンギンを例えて、リスクを恐れず挑戦するベンチャー精神の持ち主を指す言葉
ゲームの場合は、ファーストペンギンとしてファンを獲得すれば、仮に強豪する後発タイトルが出てきても、圧倒的なゲームの面白さを維持し続ける限りポジションを維持できます。
そして、ゲームは非常に嗜好性の高い商材ですから、グランツーリスモ、ウイニングイレブンなどの事例をあげるまでもなく、市場が成熟すればするほど、特定のゲームによる市場シェアが高くなる傾向があります。
ゲーム業界でFPS、TPSというジャンルは古くからPCや家庭用ゲーム機で存在していましたが、スマホ市場においては「荒野行動」が登場するまで存在しませんでした。結果、スマホにおける「バトロワという新ジャンル」で「荒野行動」はスマホ市場限定ではありますがファーストペンギンになりました。
つまり「スマホの元祖バトロワ」というポジションの獲得に成功したわけです。多くの人が、そんなポジションあると気づかなかったかもしれませんが、市場にはポッカリ空いたポジションが確かに存在していたのです。
そのポジションが存在するヒントになったのはPC版「PUBG」によって、「バトロワ」というジャンルがPCで発掘できたという点があります。PC版PUBGリリースの8か月後に「荒野行動」は「バトロワ」の可能性に注目しスマホ版をリリースすることになります。
これによって「荒野行動」は「スマホ元祖のバトロワ」というポジションの獲得に成功します。
しかし多くの場合で「スマホの元祖バトロワ」という、空いていたポジションの存在に気づけたとしても、PC版「PUBG」リリース8か月後にスマホで「バトロワ」をリリースするなんて、誰でもできることではありません。
・スピード感(観察力、判断力)
・資金力
・開発力
この3つを「荒野行動」は持っていました。これは、これまでのゲーム会社ではできなかった、ゲーム会社としてのパラダイムシフトでもあったわけです。
②コミュニケーションツールとしての進化
判断力、開発力でファーストペンギンになった「荒野行動」ですが、配信後半年以内におけるコンテンツ拡充は凄まじいものがありました。
様々なコンテンツ拡充の中でも「荒野行動」の成功に大きく寄与したのは「コミュニティ機能」による「荒野行動のコミュニケーションツールとしての進化」にあります。
ここをマーケター視点で分析すると次のようになります。
・ボイスチャットを使った10代女性を中心としたLINEに代わる友達とのおしゃべりツール |
↓ |
・SNS(性別検索・カップル機能)×ボイスチャット=繋がるゲームとしての男性ユーザー獲得 |
↓ |
・結果、男女相互にモテたいマインドによる課金促進 ※強くなりたい、目立ちたい、可愛く見せたいをかなえるアバター、アイテム課金 |
↓ |
・人気ゲームになれば、既存Youtuberが取り上げやすくなる(youtuberがとりあげたくなる) 荒野行動の中でスタープレイヤーが生まれれば荒野行動から新しいYoutuberが生まれる |
↓ |
・クチコミ、Youtuberによる荒野行動の認知拡大 |
この順番はあくまでも仮です。実施には順番は前後していたかもしれませんし、これらのプロセスが同時多発的に発生したのかもしれません。ただし、これらのこれらのプロセスが発生したと考えています。そしてこれらプロセスの発生を裏付けるデータがあります。(参考データ:荒野行動の認知経路)
このデータからわかることは「荒野行動」のアプリ認知経路については、クチコミとYoutuber(動画系)で半数を超えているということです。これは一般的なゲームがアプリストア内による検索(ASO)や、TVCMなどのマスプロモーション経由である点と大きな違いがあります。
つまり、ここから「荒野行動」がヒットした要因として次の項目が貢献していると推測できます。
・ゲーム外ではなく、ゲーム内にコミュニティを作れたこと |
・コミュニティは人間力に依存しており、人間力はクチコミを生み、離脱しにくく継続率や課金率を押しあげ、オーガニックユーザー獲得に貢献したこと |
・バトロワというゲームジャンルの特性上、同じシーンはひとつとして存在せず、自分だけの「映えるスクショや動画」が取れるため、コミュニティで深堀りできるネタが無限に存在する |
このように「荒野行動」そのものが、ゲームでありながらSNSとしての役割を果たす「コミュニケーションツールに進化した点」が成功を後押ししたのは間違いありません。
ここまでゲーム本編が作れていると、あとはその魅力を適切に伝える「きっかけ」をプロモーションをで与えるだけで済みます。
ここまでが、「荒野行動」の実態をマーケターとして客観的に観察した上での分析になります。
しかし、重要なのはここからです。
なぜなら、すべてのユーザーがゲームに「出会い」を求めているわけではないからです。ユーザー心理を深く掘り下げると当サイトでもこちらで解説した「マズローの5段階欲求説」における3番目の欲求にあたる「社会的所属欲求」で説明ができます。
③人間なら誰しも抱く「社会的所属欲求」の構築
「マズローの5段階欲求説」はこちらの記事で細かく解説していますので時間があったら読んでみてください。
スマホゲームであっても、ほとんどのゲームは「マズローの5段階欲求説」における「⑤生理的欲求」「④安全的欲求」といった「低次の欲求」を満たす程度にとどまっています。
でも「低次の欲求」はゲームという商材には最低限必要なことであり、純粋なゲームとしての面白さが該当します。これがなければまずゲーム市場で戦うことができません。当たり前の必須要素であるゆえに「低次の欲求」が満たされると人間は必ず「③社会的欲求」以上のものを求めるようになります。
「③社会的欲求」とは必ずしも「出会い」とは限らず
「自分の居場所」があり、そこに所属することでも満たされます。
「③社会的欲求」から上の「高次の欲求」が「荒野行動」が「コミュニケーションツール」となることで達成されたことで「ゲームが主役」ではなく、「ゲームは脇役」になり、「人との繋がりがこそが最強コンテンツ」である状態を作り出せた点に成功のヒントが隠されているのです。
しかし、多くのゲーム開発においては「ゲームが主役」として考え、ゲームコンテンツの拡充に注力しがちです。これは間違いではなく、過去のゲームではそれが「正しい」とされてきました。しかし、「ゲームが主役」でありつづける限り「荒野行動」クラスの大ヒットは生まれません。
一見、「ゲームが主役」であるゲームを作り、結果として大ヒットになっているタイトルも世の中には存在しますが、その背景には「人との繋がり」が必ず存在します。
「荒野行動」を超える方法
ここまで「荒野行動がヒットした理由」について分析してきましたが、成功事例を分解しても、それって後付けで何とでも言える事だったりしますので、トロネコとしては、それ自体はあまり意味がないと思っています。
重要なのは成功事例から得た「示唆」や「ヒント」を元に、次にどう生かせるのか「NEXTアクション」が取れるかにすべてかかっています。
そこで、ここからは「荒野行動」の成功事例から見える「示唆」や「ヒント」をもとに、もしあなたが新作「バトロワ系ゲーム」を投入するなら、そこにどうやって活かせるかお話していきましょう。
まず最初に、荒野行動は「先行者利益×圧倒的なコンテンツ×コミュニティ形成=圧倒的なアドバンテージ」を構築できているので、真正面から戦っても、100%勝てないと断言しないけど、非常に苦しい戦いを覚悟する必要があります。
例えば新作バトロワで、「荒野行動」にはなかった魅力的な新しいコミュニティ機能を実装しても、「荒野行動」がそれを実装してしまえばアドバンテージはなくなります。
そこで新作バトロワで市場参入するなら次の2つの要素が重要になります。
①ミリタリー系ではないコンセプトのバトロワ
そもそもミリタリー系FPSを発端とするジャンルコンセプトは、明らかに女性向きではなく、男性ユーザーにとっても限られたファンによるニッチなジャンルでした。よってミリタリー系ではないバトロワにはまだチャンスがあります。
「有力IPのチカラを借りて戦うか」
「またはミリタリーよりも一般ウケしやすいモチーフで戦うか」
様々な方法が考えられます。
先日「魔法をテーマにしたバトロワ」が登場するというニュースがありましたが、
パズル×RPG=パズドラ
で新しい市場開拓をしたように
バトロワ×????=????
といった掛け算による市場開拓のチャンスはまだあります。
②コミュニケーションツールとしての進化
世の中には様々なコミュニケーションアプリが存在しますが、すべての人が「出会い」を求めているわけではなく、「別の価値」を求めている人も多いのです。
例えば「英語を学びたい」「自分の居場所を見つけたい」など、コミュニティとしての進化の余地はまだまだありますし、ゲーム以外に目を向けると「コミュニティのヒントの断片」は多く存在します。
大前提として「荒野行動」のゲームとしての面白さ(ゲームシステム)を世界標準とするならば、それを超える必要はありますが注目して欲しいのは
荒野行動に実装している「ボイスチャット」や「友達検索機能」は古くからゲーム業界に存在していた機能であり、荒野行動が発明したものではありません。
既存技術の掛け合わせによっても、まだまだコミュニケーションツールとして進化できる余地はあるのです。
荒野行動の「示唆」を元に大ヒットゲームを仕掛ける方法
「荒野行動」による「示唆」はバトロワというゲームジャンル以外でもヒットタイトルをつくる上で参考になります。
ここで参考になるのは「マズローの5段階欲求説」で説明した、「社会的所属欲求」を満たせるゲームのコア設計ができているかという点です。
社会的所属欲求を満たすためには「バトロワ×ボイスチャット機能=コミュニケーションツール」という形以外にも方法が考えれます。
多くのゲームが「マズローの5段階欲求説」では「低次の欲求」にあたる 「生理的欲求」「安全的欲求」でとどまっており、「社会的所属欲求」を満たす機能として、良く知らない人をゲーム内で「フレンドA」としてオススメされる程度にとどまっています。
そもそもマーケターやゲーム開発者が 「マズローの5段階欲求説」を意識してゲーム内外を設計しているかというと疑問です。もちろん多くのバトロワゲームも意識しているかもわかりません。
しかし、RPG、SLG、アクション、TCGなどゲームジャンルを問わず、意識することで、ヒットを仕掛ける思考を身につけることはできます。
ちなみに、マーケター視点からすると施策で獲得した1ユーザーが、1ユーザーで終わらず、ゲームをプレイした後、他のユーザーを心の底から誘いたくなるようなゲーム設計をゲームのコア部分に開発とマーケターが一緒になって実装しなければ永遠に施策で1ユーザーを獲得し続ける体力勝負になってしまいます。
施策で獲得する1ユーザーはあくまでもゲームを広めてくれるアンバサダー候補であり、そこからの自発的拡散ができるかはゲーム次第であり「マズローの5段階欲求説」にここを解決するヒントが隠されています。
まとめ
今回、「荒野行動」のヒットの原因を探りながら、それを自社の新作タイトルにどうやって活かしていくか?というテーマでお話をしました。
今後も機会があれば、具体的なヒットタイトルの分析をして行きたいと思います。
というわけで、今回はここまで!