スマホゲームマーケティングにおいて市場調査・FGIの結果を100%鵜呑みにできない6つの理由
こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回はマーケターとしては切っても切れない「市場調査(マーケティングリサーチ)についてお話ししましょう!
市場調査は一度やれば終わりというものではなく、永遠に終わりがなく続く、マーケティングにおける重要なタスクのひとつです。
マーケティングリサーチといえば「リサーチ担当」がやるもの?という認識があるかもしれませんが、実際に調査設計からマーケターが参加する必要があります。
実際にトロネコも市場調査は「リサーチ調査設計段階」から入って、調査設計に関わってきました。なぜなら、リサーチ担当に全部お任せではなく、設計段階からマーケターが入らないと調査結果をマーケティング戦略や、プロモーション施策、ゲーム開発に活かせないからです。
多くの現場では「市場調査」をやることが目的になっているケースが見られます。「市場調査」はマーケティング戦略、プロモーション、ゲーム開発に活かせなければ実施する必要はありません
そこで今回はマーケターとして必ず押さえておきたい市場調査について注意することをお話します。
そして、市場調査について必ず押さえておいて欲しいことが3つあります。
①市場調査は必ずしも完璧なものではない
②むしろ不完全で、限界がある
③参考にはするけど100%鵜呑みにしない
ここがポイントになります。
結果をそのまま全部受け入れるのではなく、結果から実態を推測しながら、調査結果をどうやってマーケティングやプロモーション、ゲーム開発に活かすかが重要です。
調査結果では確かに市場がが存在するように見えるけど実際には存在しない理由
市場調査を実施した結果、次のような事実が判明したとしましょう。
・このゲーム企画には300万人の市場規模があって
・その中でも100万人の人が絶対に遊びたいと言っている
・残りの200万人がそこそこ遊びたいと言っている
さて、この結果から皆さんはどのように感じますか?
多くのケースで、次のように思うことでしょう
このゲームは300万ダウンロードは見込めるぞ!
しかし、実際はどうでしょうか?300万ダウンロード獲得できましたか?
実際のところ、市場規模が300万だからダウンロード目標数を300万ダウンロードに設定したけど50万ダウンロードしか獲得できなかった・・・・
このような状況はゲーム業界では「あるある」の話です。
市場調査結果では300万人の市場の確認が証明されていたのに、何故このような実態とのギャップが生まれるのでしょうか?
それは、次のような原因が挙げられます。
・100万人の人が絶対に遊びたいと言ったけど、本当に遊びたいと思っていたのだろうか
・残りの200万人がそこそこ遊びたいと言っているけど、絶対に遊びたいとは言っていない
視点を変えて、このようにみることができれば、300万ダウンロードがそのまま獲得できるという結論には絶対になりません。しかし。多くの現場では300万人が獲得できるという調査結果をそのまま受けとってしまうのです。
「調査結果はあくまでも調査上の結果であり、参考にはなるけど、現実とイコールなんてことは100%ない」
まず、この視点で臨んでください。
なぜなら次のような理由があるからです。
スマホゲームマーケティングにおいて市場調査・FGIの結果を100%鵜呑みにできない6つの理由
①調査に対する人間の回答は曖昧で、回答者の真意を100%反映した調査は不可能である
実際の調査はWebや紙記入、面談など様々な形態がありますが人間が回答する形式は変わりません。人間が回答する以上、様々な「あいまい」が存在します。よって調査の限界が存在するのです。
例えばWebで実施する調査には次のような「あいまいさ」が存在します。
・アンケートに答えたら報酬がもらえるから報酬をもらうための回答である
・調査内容が長いので最初は真面目に答えていたけど後半は適当に答えた
・文字で調査の質問を聞かれても、適切な回答をするには限界がある
・人によって「好き」「嫌い」の程度が異なる。AさんとBさんの「好き」と「大好き」の基準は必ずしも同じではない
わかりやすい例をあげると、「あなたはパズルゲームが好きですか?」という質問があって、回答項目が次の5つだったとします。
「大好き」「好き」「ふつう」「嫌い」「大嫌い」
「大好き」と言えば凄く好きなイメージがありますが、人によっては一般レベルでは「好き」程度であっても、「大好き」を選ぶかもしれません。
もう少しわかりやすい例を挙げると
日本人とアメリカ人では「好き」「大好き」の程度が全く異なることが調査でわかっています。同じ調査を日米で行うと、アメリカの方が「大好き」を選ぶ人が多いのです。しかし、彼らは「大好き」を選択しているのに、日本人よりもそのゲームをインストールして遊ばないのです。
日米の違いは文化の違いも含まれていますので、一概には言えませんが、ただしここで重要なのは調査結果を完全に鵜呑みにすると危険ということです。
こちらで海外マーケティングの話をしていますが、海外における市場調査はにほのと比べると150%増しくらいにポジティブにバイアスがかかった結果が出やすいのです。
これはお国柄が影響しているのですが、アメリカ人はそんなにイイと思っていない場合でも
「それイイよね!」
と回答する傾向があります。
②調査には鮮度がある。調査を実施した日からどんどん鮮度が落ちる
トロネコは長年にわたって家庭用ゲーム業界でマーケティングの仕事をしてきました。
昔の家庭用ゲームにはアンケートハガキが封入されており、そのアンケートハガキからユーザーの満足度や次回作へのヒントをゲーム会社は入手していました。
現代はアンケートハガキではなく、Webアンケートに完全に切り替わっていますので、以前とは比べものにならないくらいに調査を行いやすくなっています。
しかし、Webアンケートであっても、Webアンケートをした時点からそのデータは古くなっていきます。スマホゲームのように常にアップデートを繰り返しゲーム内容が進化していくゲームの場合
ゲームの進化と同時にユーザーの状態も進化していくのです。
先週実施したWebアンケートの結果は、あくまでも先週時点でのユーザーの状態を表しているに過ぎません。
よって完全に100%鵜呑みにすることは危険であり、時間経過を踏まえた判断が必要になります。
調査結果は調査したタイミングで過去の事実に過ぎなくなってしまうのです。
スマホゲームアプリでもインストール時にアンケート機能を実装しているアプリがあります。このアンケート機能は素晴らしいものがありますが、あくまでもインストールした時点でのユーザーの状態を表現しているに過ぎません。
よって、アプリインストール時のアンケートを本気で活かすなら、インストールから数日以内、長くても1週間以内にアンケート結果を活用できる施策をセットで準備しておかなければ、アンケートをする意味がないのです。
【参考記事】【必見】スマホゲームのインストール時アンケート機能は配信初動の継続率を大幅改善できます
③どんな調査にもバイアスがかかる
その昔、家庭用ゲームのパッケージに封入されていたアンケートハガキや、近年、Webで実施するアンケートもそうですが
企業によるアンケートへの回答は、ユーザーの自主性にお任せしているものになります。つまり「アンケート回答をしてくれるユーザー」という時点で一定のバイアスがかかるため、実態を完全に把握することはできません。
これを回避するために外部の調査会社を使ったりしますが、外部の調査会社でも「謝礼」を使って人を集めたり、そのゲームが好きな人を収集して調査をするわけですからバイアスは必ずかかります。
よって、結果をそのまま鵜呑みにするのは危険というわけです。
④市場調査は設計次第で結果をコントロールできる
市場調査は設問の聞き方、その調査設計次第で調査する側にとって幾らでも都合のいい回答を収集し、解釈することができます。
よって、悪いマーケターの中には、自分たちの都合のいい調査結果を出すための調査設計をする人もいます
実際にそのようなことをする人はいないと思うのですが、企画を通すために、調査による都合の良い裏付けを出す人、都合の悪い調査結果は出さない人が存在するのは事実です。
でも、結果的に売上とか成果がでないので、全く意味がない行為と言えます。
このように悪意を持って調査をしている人がいるならば、まだ解決策はあるのですが、厄介なのは悪意がなく、完全な善意でありながら、間違った調査設計によって、間違った調査結果を生み出してしまい、それを信じてしまうようなケースです。
悪意がない極めて善意の結果で、間違いに気づかず、その調査結果をもとに戦略を立てて進んでしまうケースがありますが、これこそ厄介なことはありません
ゆえに、調査設計をする人、インタビューを実施する人、インタビューの聞き手のスキル等が調査に大きな影響を与えます。つまり市場調査とはリサーチャーや分析担当の能力がシビアに反映されるツールなのです。
しかし、ここで問題なのはゲームは非常に嗜好性が高い商材だという点です。
ゲームが本当に好きで、ゲーム体験も豊富で、ユーザー目線がなければ適切な調査設計はできません。ありきたりなフォーマットを横展開した調査設計になりがちです。
しかし、現実問題として
ゲームが本当に好きで、ゲーム体験も豊富で、ユーザー目線を持った調査担当がどれだけ存在するでしょうか?
そう考えると、あなたがマーケターで、本気で市場調査に価値を求めるならばリサーチャーや分析担当に丸投げするなんて、極めてリスキーな話です。
マーケターであるあなたがリサーチャーに寄り添って、時にはゲームクリエイターやプロデューサーも巻き込んで調査設計をする必要があります。
⑤調査は過去の経験で想像できる世界しかわからない
調査は人間に対して実施するものです。
そして、人間は過去の経験の積み上げから作られた生き物です。
つまり、実際のところ人間を相手に調査をしても
「調査対象の過去の人生経験に基づく世界の範囲しかわからない」
ということになります。
つまり、これから起こりうる未知なる未来や
100年後に大ヒットするゲームの内容は調査対象の過去の人生経験には存在しないため調査で知りようがないのです。
過去の人生体験に基づいたユーザーの欲求を「顕在ニーズ」と呼びます。
健在ニーズをゲームの世界で例えるなら、
「ドラクエは楽しい」「ポケモンGOは楽しい」といった過去のプレイ経験の延長で語れるニーズとなります。
顕在ニーズについては下記で詳しく説明していますので参考にしてみてください。
【関連記事】ゲーム開発における潜在ニーズと顕在ニーズの違い【ゲームクリエイターとゲーム開発者の違い】
例えばドラクエの新しいゲームとして登場した「ドラゴンクエストウォーク」は調査で発見できる可能性がある「顕在ニーズ」といえます。
なぜなら、ドラクエという過去資産の活用方法と、ポケモンGOが存在するわけですから、「ドラクエウォーク」の顕在ニーズは市場調査で見つけることができます。
一方で市場調査でいまだかつてない、「未知なるゲームのニーズ」までは見つけることができません。
厳密には「未知なるゲームのニーズ」のヒントとなる欠片は見つかるかもしれませんが、結構大変です。
どういうことかというと、ユーザー本人も意識していない、でもユーザーに提示すれば
「あ、それ、いいですね!面白そうですね!」
と初めて気付く「潜在ニーズ」をWebや紙を使った市場調査で踏み込むことは難しいからです。これら市場調査の限界を突破するためにFGI(Focus Group Intervew)という対面式のインタビュー調査を実施することがあります。
しかし、FGIもインタビュアーのスキルと、実際にリクルートしたインタビュー対象者によって、どこまで潜在ニーズに踏み込めるかというと大変な話なのです。
ここでちょっと、冷静になって考えてみて欲しいのですが
エンタメ、ゲームの世界は基本的に未知なる楽しさへの飽くなき挑戦です。
すべてのゲーム会社がドラクエ、ポケモンを生み出せるわけではありません。
だからこそ「潜在ニーズ」に踏み込んで、次の20年を席巻する新しいゲームをつくろうと日々模索しています。
⑥市場調査ではユーザーインサイトまで踏み込めない
おさらいすると
「顕在ニーズ」は調査で収集できても
「潜在ニーズ」までには調査で踏み込めない
これが市場調査の限界です(これ、結構深い話です)
だから、マーケター、リサーチャーはFGI(Focus Group Intervew)というインタビュー形式で、ユーザーの奥底に眠る「潜在ニーズ」を引き出そうとします。
ユーザーインタビューという調査形態は「潜在ニーズ」に踏み込むための調査です。
だから、ユーザーインタビューで「顕在ニーズ」を聞くのは目的を間違っています。限られた時間の中で「潜在ニーズ」を掘り起こすためにユーザーインタビューは使われるべきなのです。
ユーザーインタビューって「顕在ニーズ」を確認する場所ではなく「潜在ニーズ」を引き出す目的で実施します。
ここが理解できていないケースが多いので本来のユーザーインタビューの価値が出し切れていなくて勿体無いのです。
「顕在ニーズ」を知りたいなら一般的な市場調査で十分です。
でもユーザーインタビューにもリスク要因があります。
それは、インタビューに呼べる人数って限られていますので、被験者の個性に引っ張られて判断を誤るリスクあります。
実際にユーザーインタビューで呼ぶ人を10人決めておいたとしても、10人来ないかもしれないし、想定していた10人の内訳じゃない人が来るかもしれません。
どういうことかというと
・当日、ドタキャンで来ない人がいる
・架空のゲーム「トロネコの大冒険」をプレイしているからインタビューに来てもらったのに、実際に来た人は遊んだことがないと言っている
・インタビューに慣れ過ぎており、ゲーム会社に都合のいい回答しかしない
・言葉で表現することが苦手であり、うまく情報を引き出せない
いずれもゲーム業界でユーザーインタビューを実施した経験がある人なら「あるあるの話」になります。
つまりFGIやユーザーインタビューは実際にやってみないとわからない「水物」的な部分があるのです。
でもユーザーインタビューってリアルな言葉として発せられるリアルな情報です。実際にリクルートしてくる人も、そのゲームが大好きでハマっているヘビーコアなユーザーだったりします。
とはいえ呼べる人数には限界があるため今回のユーザーインタビューは10人を呼んだとしましょう。
そこに、開発チームのメンバーを同席させたとします。(具体的にはモニターでチェックできる別室に開発チームのメンバーは画面越しに見ているわけです)
このような状況ではリクルートしてきた被験者の意見がバイアスにかかった意見だとしても、その意見に開発チームは影響を受けてしまうかもしれません。
たった10人のインタビューが世の中の全ての意見だと勘違いしてしまうリスクがあるのです
それでも、ユーザーインタビューを開発メンバーに見せることには価値はあります。リアルなユーザーの声こそ、人間の心に響くメッセージはないからです。
ただし、マーケターとしては必ず同席し、間違った判断をしないようにする予防線を張っておくのも役割のひとつです。
価値ある市場調査をするためのヒント
最後に、価値ある市場調査を実施すためのヒントについてお話をしましょう。
市場調査ってゲーム開発の真っ最中に実施されること多くないですか?
またはマーケティング担当がアサインされる前に開発主導で実施されたり、またはマーケターがアサインされていても、マーケティング戦略がまだ作成されていないタイミングで実施されたりしませんか?
要するにゲームの配信から結構前に実施されることがほとんどだと思います。
(配信直前に実施されたら調査結果をゲームに反映できませんからね)
市場調査で一番やってはいけないのは
「マーケティング戦略が何もない時点で調査をやってはいけない」ということになります。
調査とは仮説を検証するためのツールです。
何もない真っさらな状態から調査をしてもいいのですが、仮説なき調査は調査の価値を大きく落とします。よって、市場調査を実施する際には必ず下記のプロセスを通るようにしましょう。
①仮のマーケティング戦略をつくる
↓
②マーケティング戦略で不明瞭な部分を洗い出す
↓
③それを検証するための調査設計をする
↓
④調査の結果、仮のマーケティング戦略の精度があがり打ち手のヒントがわかる
これは最低限必要です。
実際には、仮のマーケティング戦略がなく、ただルーティンのように調査をしているケースがほとんどではありませんか?(たぶん、そうですよね?)
また、調査をしてもゲーム開発やマーケティング戦略、プロモーションに反映できない、または、するつもりがない確認目的の調査をしていませんか?
調査をすることが目的になっていて、調査結果が活用されないことがほとんどだったりしませんか?
それって全くを持って無駄なので調査自体をやる意味ないです。
それでも、調査を実施して、その結果、調査結果を目の前にして仕事をやった気になっていませんか?
そんな見せかけの調査はやめましょう。
この記事を読んで頂いた皆さんは是非本質に踏み込んだ調査を実現してほしいのです。
今回のお話の通り、調査は万能ではありません。
よって調査結果が何か大きな判断を決める材料のすべてにならないようにする必要があります。調査結果だけでなく、様々な情報を踏まえた上でジャッジをしましょう。
そして調査は1回限りではなく、状況やフェーズに応じて何度も実施して、精度をあげるようにしましょう。
なぜならユーザーも市場も常に変化しますし、そのゲームをプレイしたユーザーは最初とは全く別の状態に進化します。すると、ゲーム開発、市場の変化によって新たなる疑問や課題が現れてくるからです。
ゲーム発売前に実行した、たった1回の調査や
毎年年末に実施している、たった1回の調査結果だけど鵜呑みにしてゲーム事業を判断するのは極めて危険です。
まとめ
市場調査でわかるのは「過去の人生経験から想像できる世界」に限定されます。ゲーム、エンタメでもっとも求められる「未知なる楽しさ」は見つけられません。
そうなんです、調査って限界があるんですよ。
だからこそ、トロネコはいつも口をすっぱくしながら伝えているのですが、調査はあくまでも参考レベルに押さえていただき、
「ゲームクリエイターには意思を持って未知なる面白さに踏み込んで欲しい」「踏み込むことができたら、未知なる面白さでも調査で検証できる」
ということを強くお伝えしています。
仮に「クリエイターが作った未知なる面白さ」をユーザーインタビューで提示して反応が悪くてもそんなに悲観する必要はありません。恐れる必要もありません。
なぜなら、ユーザーインタビューの被験者は「顕在ニーズ」でしか答えられないからです。
(顕在ニーズとは自分自身で自覚している過去の人生経験に基づいて想像できるニーズです)
「クリエイターが作った未知なる面白さ」は「潜在ニーズ」も飛び越えている場合もあるので、被験者からみると理解不能な場合もあります。
(遠い未来、10年先を行き過ぎて理解不能なゲームってありますよね?)
でも、本気でそれが面白いと確信があるなら、意思を持って市場に出して問うべきです。なぜなら、ゲームの歴史を作ってきたのは「未知なる楽しさへの飽くなき挑戦」だからです。
市場調査でわかる「顕在ニーズ」だけで作られたゲームではヒットは打てますが、場外ホームランは打てません。
今回ご紹介した「市場調査」について興味がありましたらメール、(contact_us@gamemarketinglab.com)または気軽にLINEチャットで無料相談できる「トロネコのカベウチ」をご利用ください。
トロネコが皆さまのカベウチ相手になります。
というわけで、今日はここまで!
最後まで読んでいただいてありがとうございました。