ゲームアプリマーケティングにおける「忘却」「借用」「学習」による新規ゲームと既存タイトルの成功を両立させる方法

マーケティング
こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回は「忘却」 「借用」「学習」という3つの概念をスマホゲームマーケティングに置き換えてお話します。
この3つの概念について初めて聞いたという人には、どんなものかも詳しくお話します。
事業コンサルティングの世界では「当たり前の概念」なのですが、ゲーム業界のマーケター的には、認知度が低い概念であり、この概念はゲーム事業における「既存タイトル」と「新規タイトル」の両輪をまわしながら健全なゲーム事業運営に非常に役立ちます。
知っておくとゲームマーケティングのスキルアップに大きな価値があるので、ぜひ、この機会に押さえておきましょう!

「忘却」「借用」「学習」って何?

「忘却」「借用」「学習」 という概念は 2013年に発売された「ストラテジック・イノベーション」(ビジャイ・ゴビンダラジャン, クリス・トリンブル著)に出てくる考え方で企業が新規事業を成長させるために解決すべき3つの課題を指しています。
書籍はAmazonで購入できますので気になる人はググってみてください。
3つの課題を簡単にまとめると以下の通りになります。
企業が既存事業、新規事業の両輪で経営の安定と成長を目指すためには「忘却」「借用」「学習」の順番で課題を解決していくサイクルを繰り返していく必要があります。

忘却

新しい事業で新しい成功を収めるためには、既存や過去の成功体験や、仕事の進め方に縛られず、それらを一旦忘れる「忘却」が必要です。
「忘却」できず、過去の成功体験に基づく「やり方」に縛られると新規事業で成功を収める上での障壁になります。
なぜなら新規事業とは、過去の成功体験や従来のやり方が必ずしも通用しない「新しい事業」へのチャレンジなのですから、「忘却」による「新しいやり方」を見つけられるかが成功のカギを握っているのです。

借用

既存企業がベンチャーやスタートアップと大きく異なるのは「借用」が可能という点にあります。「借用」とは既存組織の中に蓄積された資産、資源、ノウハウなどを「借りられる」という意味です。
人、モノ、金、技術、特許、あらゆるものが既存企業には既に存在しますので、新しい事業を成功させる上で強力な武器として使えます。
「忘却」と「借用」のバランスこそが既存企業が新規事業を成功させる上での需要な鍵になるわけです。

学習

最後にあげられる「学習」は「忘却」と「借用」を繰り返して蓄積された「成功」「失敗」「経験」を元に、企業自身が「学習」をして事業の成功確度を上げ、最終的には「新たな成功の方程式」を作り出すフェーズになります。

このように新規事業を成功させるためには

「忘却」→「借用」→「学習」といったサイクルが必要であるという事を 「ストラテジック・イノベーション」という本の中で語られているわけです。

これらは理想的なサイクルなのですが、実際にできている企業がどこまで存在するのかというと怪しい部分ではありますが、企業の成長においては非常に「理にかなっている」のです。

ゲーム事業に置き換えた 「忘却」「借用」「学習」

この 「ストラテジック・イノベーション」で語られている 「忘却」「借用」「学習」 をゲーム事業に置き換えてみると次のようになります。
これは書籍の中に書いてあることではなく、トロネコが独自に置き換えたものになります。

忘却

既存ゲームタイトルの成功体験に甘んじない。既存の「成功の方程式」はさらに成熟させ自社の強みとして事業基盤を強固なものにしつつも、成功体験に囚われず一旦忘れることで新しい方法を常に探し続ける

借用

とはいえゼロから「新しい方法」を探すのではなく、自社の資産である「ゲームエンジン」「得意とするゲームジャンル」「ゲームブランド」を活かしたゲーム開発とマーケティング力を借りて、アドバンテージを持った状態で新しいゲーム事業を立ち上げる

学習

忘却→借用のプロセスでチャレンジした新規ゲームタイトルで得た新たな成功体験、失敗体験、気づきを組織として振り返り、次の新作ゲームタイトルにフィードバックして新作ゲームの成功精度を高めていく

ゲーム事業において「忘却」「借用」「学習」はこんな感じに置き換えられそうです。

ゲーム事業においては、歴史的に完全新規タイトルは成功確率が低く、どうしても既存タイトルの続編に依存しがちなのですが、「忘却」→「借用」→「学習」というプロセスに置き換えてみると、完全新規タイトルへのチャレンジについて、成功確率をあげていく「方法」が見えてきます。

つまり、既存タイトルで既に成功しており、人、モノ、金などの資産をも「借用」できる状態でありながら「次の新作ヒット」が出せないでいる状態から脱出するためのヒントがここにありそうです。

しかし、このような「ヒント」を導き出すことと、実際にヒントを元に「実行」することには大きなギャップが存在します。

わかっているけど、それができないのが悩みであり課題なんです・・・

というのが多くのゲーム事業に関わる方々の意見なのではないでしょうか?なぜ「わかっていても、できないのか」、ここからは、その「核心部分」に踏み込んで行きたいと思います。

ゲーム会社が「忘却」できない原因と「忘却」するために必要なこと

なぜゲーム会社が「忘却」できないのか?

その理由は非常にシンプルです。

・「忘却」という概念を持っていなかったから

これが原因なら対策は極めてシンプルです。今回の記事を読んで頂き、ぜひ「忘却」するように努力してみてください。

・過去の成功体験、成功方法を「忘却」することが怖いから

「忘却」とはこれまでの成功体験を否定することではありません。成功体験はそのまま「既存タイトル」に活かしていく武器として使い続けます。
「忘却」は新しいチャレンジのために「一旦忘れるという行為」ですから、「忘却」の意味を正しく理解することで「忘却」が怖くなくなります。

・人間は誰でも「従来とは異なる方法」に対して極度な不安を抱きがちです。

「いままでと同じやり方」を踏襲することが「楽である」という事も知っています。よって、この不安を取り除いてあげるリーダーを組織にアサインできれば「忘却」に対する「実態のない不安」に惑わされることがなくなります。

ざっくりした説明になってしまいましたが、この3つの方法を具体的に落とし込むことで「忘却」への対策としては使えます。

ゲーム会社が「借用」できない原因と「借用」するために必要なこと

続いて、なぜゲーム会社が「借用」できないのか?

この理由も非常にシンプルです。

・既存タイトルのヒットが内製ゲームでなければ借用できない

既存タイトルがもし外部開発によるヒットであれば、その開発ライン自体は自社のものではないので厳密に「借用」できる自社資産とはいえません。
よって、ここで重要なのは「安易な外部開発という判断は適切ではない」「どのタイトルを内製、外部開発するか慎重な判断は必要」となります。ちなみに外部の開発会社を子会社化するなら「借用対象」になります。

・既存タイトルのヒットにゲームジャンル特性など独自の資産価値がないと借用できない

結果を出しているゲーム会社の場合は必ず自社の強みを持っています。サッカーゲーム、レースゲーム、RPG、シミュレーションゲームなど他社の追随を許さない独自の強みをゲームジャンルの開発ノウハウとして持っています。
よって既存ヒットタイトルにおける「ゲームジャンルとしての優位性」があれば、「借用」として使えます。
そのエンジンやノウハウをベースに「借用」して新しい新作タイトルを開発でき、かつゼロスタートではなく市場でアドバンテージを持って戦えるのです。
一方で「ゲームジャンルとしての優位性」がなく、ただ既存タイトルがヒットしている状態は「借用」に値する資産が存在するのか怪しいというわけです。

・既存タイトルのヒット要因が理解できていなければ借用できない

最後にどんなヒットタイトルでも、そのヒットの要因が自社内で分析、理解されている状態で、かつ、そのヒット要因は「横展開」できる状態まで昇華されていないと「借用」対象にはなりません。
ゲーム業界には「たまたまヒットした」という事象が歴史的にも存在しますが、「たまたまヒットしてしまった」ならその要因を二次利用できるレベルまで深く掘り下げないと「借用」対象として活用できないというわけです。

この「借用フェーズ」については、今回説明した3つの要因で打ち手がイメージできると思いますので、足りない部分を対応していけば「借用」できるようになります。

ゲーム会社が「学習」できない理由と「学習」するために必要なこと

最後にゲーム会社がなぜ「学習」できないのか?
これも原因と対策はシンプルです。
こちらの記事でも書いていますが「失敗」「成功」「気づき」について「振り返り」を行い、それを「人」ではなく「組織全体」にフィードバックし、組織として成長できるプロセスを組み込んで「学習できる組織作り」をすることで解決できます。
多くの組織において「成功したときは成功理由を探そう」としがちですが、「失敗した場合は失敗理由に対して徹底的に深堀り組織にフィードバックしようとしない」という特徴があります。

これは純粋に「成功は嬉しいけど、失敗は深く掘り下げたくない」という人間の特性に依存する話ですが、この状況を変えていく事が「学習」には必要なのです。

まとめ

今回、「 スマホゲームマーケティングにおける「忘却」「借用」「学習」による新規ゲームと既存タイトルの成功を両立させる方法」というテーマでお話しました。
この考え方は「ゲーム業界」においては、まだメジャーな考え方ではないのですが、新たな気づきがあったら嬉しいです。
もしこれを読んでいる皆さんが「新規タイトルで成功したい!」と考えているなら、使える考え方だと思いますし、組織を動かすためのヒントにもなりますので是非活用してみてください。
というわけで今回はここまで!