【徹底解説】休眠・歴史あるゲームIPの取扱説明書
こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回は絶対にやってはいけないこと
「既存IPのゲーム化、または歴史ある人気IPのリブートを狙ったゲーム化において、既存ファンを無視して新規ユーザー獲得に振り切ると必ず失敗します」
という、ちょっと怖い話をします。
ただ失敗するだけでなく、
そのIPに歴史があり、その歴史を支えてくれてきた熱心なファンが存在すればするほど、取り返しのつかない失敗になります。
IPリブートが目的だったのに、そのゲームIPに最後のトドメを刺す結果になりかねないので、今後、過去IPのリブートを狙ったゲームを考えている人は是非、今回の記事を参考にして頂ければ幸いです。
IPって何?という方は下記で詳しく解説していますので合わせて読んでみてください。
休眠・歴史あるIPを取り扱う上での基本的な考え方
その昔、大ヒットした歴史あるゲームを久しぶりにリブートさせたい!
そう思ったら、まず押さえておくべき3つの基本的な考え方があります。この3つを押さえておくだけでも、大きな間違いを事前に防ぐことができます。
歴史あるIPをリブートしたいという想いはゲーム会社の勝手な都合である
多くの人が勘違いしていること。
歴史あるIPをリブートして欲しいというのはファンの総意ではありません。一部、そういう意見を持ったファンもいるでしょう。でもそういう意見は目立つだけで、全体からみるとごく一部に過ぎないのです。
多くの人は、かつて熱狂したゲームに対する楽しい想い出は、楽しい想い出のまま心の中にしまっておきたいのです。
これらを拡大解釈して、「歴史あるIPをリブートする「リブートしてあげよう」というゲーム会社側の想いは、あくまでも「自己都合の想い」に過ぎません。
なぜなら、ゲーム会社におけるIPのリブートの目的は「ビジネスにおける利益追求」以外の何物でもないからです。
別にビジネスを否定しているわけではありません。ここで重要なのは
「歴史あるIPをリブートしたいという想いはゲーム会社の勝手な都合である」
これが大前提として考えるべきなのです。それを踏まえて
「どうやってファンに寄り添い、ファンの気持ちになってIPをリブートさせるべきか」
といった本質に踏み込んで考える必要があります。
失敗する多くのケースではゲーム会社の都合が先行してしまい、これまでIPを支えてきてくれた、最も重視すべきファンを見失っているケースがほとんどです。
歴史あるIPほど支えてくれた熱狂的なファンがいる
かつて一世風靡した歴史ある古いゲームIP、キャラクターIPほど熱狂的なファンが存在します。
時間の経過によって最近はゲームをあまり遊ばなくなっているような人ですが、時間の経過によって社会的にも重要なポジションについたり、発言力を増したり、若いインフルエンサーとは異なる「重みのある発言力」を持った人たちです。
つまり、歴史あるIPほど常時、表には出てこないけど、ふつふつと熱を持ち続けている、かつての熱狂的なファンがいまだに存在していることを忘れてはいけません。
かつての熱狂的なファンにとっては、そのゲームIPは人生の一部である
人間は齢を取ります。
20歳も、20年経過すれば40歳になります。
その20年間で夢中になったゲームを始めとしたあらゆるエンタメや、物事は、その人にとっては、ただの記憶、想い出ではなく、人生の一部になっているのです。
例えばトロネコにとって、ファミコン版「ドラゴンクエスト」は当時、ゲームショップに並んでまで購入した想い出がありますが、まさに人生の一部なのです。
歴史あるIPゲームは、ただのゲームではあるけれど、その人の人生の一部になっているという事を考えたら、変なモノは作れません。
なぜゲーム会社は休眠・歴史あるIPをリブートさせたいのか
新作ゲームを作るなら、100%完全新規タイトルを作るという選択肢もある中で、あえて長い間、寝ていた歴史あるIPをリブートするという選択をゲーム会社はするのか?
メリットについて整理しておきましょう。
ゼロから新規タイトルを立ち上げることが難しいから
ゲーム事業において、ゼロから新規タイトルを立ち上げるのは大変です。家庭用ゲームでは至難の技であり、スマホゲームでは新規タイトルが比較的立ち上げやすかった時期もありましたが、現在は難しくなってきています。
ゼロから立ち上げるよりも、既にファンが存在しており、ゼロスタートではない場所から始めらる版権IPを使う事で事業リスクを減らすことができます。
なぜゼロから立ち上げるのが難しいかというと
「ゼロからIPを立ち上げるスキル」
「既存IPを使って事業をまわすスキル」
この両方に求められるスキルセットが全く別物であり、転用が効かないからです。それゆえに既存IPでヒットを連発している人が、ゼロからIP立ち上げても結果がでにくいのです。
ゼロから新規タイトル立ち上げが難しい事をゲーム会社もわかっていますので、だからこそ、過去に大ヒットしたIPのリブートが実現するなら、願ったり叶ったりというわけなのです。
下記の記事でも詳しく書いています。
既存IPを活用した方がお金も時間も節約できてリスクヘッジができるから
ゼロからタイトルを立ち上げる事は非常に難しいのですが、それでもゲーム会社として10年単位で継続的に利益を生み出す自社IPは欲しいものです。
ですから、ゼロからタイトルを立ち上げる努力は止めません。
でも、それには「時間」「お金」「労力」「それを実行できる人材や体制」といった様々な「コト」「モノ」が必要になります。
だからこそ、既存IPを持っているならば、仮にそれが、ひと昔に大ヒットした休眠IPであっても、ゼロから立ち上げるよりはさまざまなコストを節約できると考えます。
ゆえに過去IPのリブートができるなら、これほど時間とお金の節約ができるものはありません。
現在進行形で価値あるIPを持つことが健全なゲーム会社経営には必要だから
他社版権IPばかりを使ったゲームラインナップで経営しているゲーム会社は、一見、安定しているように見えても、実は長期視点でみれば非常に先行きが不透明と言えます。
ゲーム会社として未来永劫、生き残っていくためには、現在進行系として価値ある自社IPを幾つ抱えているかが重要です。
もちろん他社版権IPを使ったゲームも短期的にはゲーム事業を安定させますので重要ですが
・他社版権IPの人気トレンドの変化
・版元との契約や関係値のバランス
などによって、常にリスクを抱えているだけでなく、他社版権IPをどんなに盛り上げて、ゲームきっかけでファンの裾野を拡大させても、それは決して自社の資産にはなりません。
休眠・歴史あるIPをリブートする場合の注意点
歴史あるIPを使ったゲーム開発をするにあたって、注意すべき3つのことをご紹介します。ここを事前に理解できているか次第で、マーケテイィング戦略とか、とるべきゲーム開発の判断がガラっと変わります。
3つのポイントを理解しておけば、そもそも大きな事故や間違いは起こることはないのです。
過去ファンに嫌われない
例えば20年前に大ヒットした国民的人気キャラクターゲーム「トロネコ」があったとしましょう。当時のメインファン層は20代で、20年経過した現在、彼らは40代になっています。
40代になった彼らは、家庭を持ち、忙しく、ゲームからも遠ざかっています。ですから、2021年、「トロネコ」を使った新作ゲームを発売しても、40代の彼らはゲームを購入する可能性が低いと思われます。
でも「トロネコ」は20年前とはいえ一世風靡したキャラクターなので知名度も抜群ですから、「トロネコ」を使うことでゼロスタートではなく、時間とコストを節約しながら新作ゲームでビジネスをしようと考えました。
新規獲得ユーザーは20代で、キャラクターデザインも世界観も一新して訴求することにしたわけです。
属性 | キャラクター | 世界観 | |
新規獲得ユーザー | 20代、男性 | いまどきのキャラクターデザイン | いまどきの異世界転生モノ |
過去ユーザー | 40代、男性 | 当時のキャラクターデザイン | 当時のオリジナル設定 |
しかし、現時点では「トロネコ」というキャラクターには「40代の過去ユーザー」しか存在しないわけです。「20代の新規獲得ユーザー」はあくまでもゲーム会社側の「勝手な理想」に過ぎず、ファンは存在しません。
しかし、ゲーム会社側の「勝手な理想」を押し出した事で、間違いなく「40代の過去ユーザー」から、この新作「トロネコ」は嫌われます。
新作の「トロネコ」は、俺たちの知らない「ネコ」になっているじゃないか!ひどすぎるぞ!
となるわけです。
過去ファンに嫌われてしまうと、既存IPを使っているのに味方がゼロになってしまいます。
なぜなら、今回のメインターゲットである「20代の新規獲得ユーザー」はあくまでもゲーム会社側の「勝手な理想」に過ぎずファンは存在しないからです。そうなると、あえて既存IPを使っている意味が失われてしまいます。
過去ファンがゲーム購入しなくても応援してもらえるゲームを作る
2021年と20年前の2001年ではトレンドも、ユーザーの趣味趣向も異なるのは仕方ありませんが、ここで重要なのは
100%の賛同が得られなくても、40代の過去ユーザーに嫌われてはダメということです。
かつての40代は新作の「トロネコ」を購入しないでしょう。よってメインターゲットにはならないのですが、嫌われるのは絶対に避けなければなりません。
新作の「トロネコ」は、俺たちの知っている「ネコ」じゃないけど、こういうのもアリかもな
くらいには最低限もっていかなければならないのです。
歴史があるIPほど既存ファンと新規獲得ユーザーの世代格差を理解する
現在の20代と40代では趣味趣向は異なります。
これについて、改めて説明不要かと思いますが、かつて20年前に大ヒットした歴史あるIPであれば、あるほど初代のイメージは強く刻まれます。
ガンダムでさえ、様々なシリーズ展開をしてきていますが、どんなに時間が立ってもトロネコにとっての人生に刻まれたガンダムは初代のファーストガンダムだったりするからです。
でも、いまのガンダムファンにとっては、その後に登場した新しいガンダムが人生に刻まれたガンダムかもしれません。
ガンダムの例は一例ですが、歴史あるIPほど既存ファンと、新規ファンの間には世代格差が存在することを忘れてはいけません。
休眠・歴史あるIPリブートを失敗するとどうなるのか?
「歴史あるIPのリブートに失敗してしまった」
「でも、ゲーム業界では失敗はよくあることだし、ま、いいいか」
と考えるのは大きな間違いです。
なぜなら、完全オリジナルの新規タイトルの失敗とは比較にならないほど、歴史あるIPを使った失敗はダメージが大きいからです。このダメージの大きさも現場も経営者も理解していない事が多いのは事実です。
なぜなら、即時的に、可視化できるほどに何か大きな数字的な影響が出るわけではないからです。
しかし、今後のゲーム事業において長期負債を抱える形でボディブローのように影響が効いてきます。一度、失った信用は時間をかけても、なかなか取り戻すことはできません。
歴史あるIPのリブートに失敗してしまうとどうなるのか?解説していきましょう。
過去に熱狂的だったファンが、すべてアンチになってしまう
ガンダムのようにシリーズ展開において空白期間が少なく、常になにかしらIP展開がされているような版権については、多少の失敗もその影響が軽減される傾向にあります。
一方で、20年前に大ヒットした「トロネコ」というキャラクターを、久しぶりにリブートしようとした場合、20年前の想い出が大きすぎるゆえに、ここでリブートを失敗すると、かつて熱狂的だったファンがアンチになってしまうリスクがあります。
つまり、これまで支えてきてくれた過去ファンまで失ってしまうのです。
ゲーム会社としてのブランドが毀損する
過去の想い出を汚されるような事をされると、そのゲーム会社に対する不信につながります。
ゲーム会社において「ブランド」という概念は、あまり深く語られていない傾向にありますが、
・マリオの新作ゲームを購入する背中を押すのは、これまでのマリオのゲームが楽しかったという経験に基づく行動である
・任天堂のゲームなら一定の面白さが保証されているから、任天堂のゲームを購入する
といったように、ゲーム会社におけるブランドとは、一定の面白さを担保してくれるというユーザーの期待値そのものなのです。
よって、過去に大ヒットした自社IPの取り扱い方を間違えてしまうと
ゲーム会社に対する「不安」と「不信感」を増幅させてしまいます。結果、ゲーム会社のブランドは毀損します。恐ろしいのは「トロネコ」のIPリブートに失敗して、今後、「トロネコ」は永遠にお蔵入りになったとしても、ゲーム会社に対するブランドの毀損は「トロネコ」単体にとどまらず、その会社全体に対して、時間をかけて効いてきます。
今後発売される全てのゲーム販売に影響する
ちょっと話がズレますね。
新作ゲームアプリ配信から半年でサービスを終了するような場合があります。1回くらいならまだしも、同じ会社で2回、3回と続くならば、この会社のゲームはすぐにサービス終了する可能性があるから、本気で遊ぶ必要はないかも!?というユーザー心理が働きます。
よって、今後、このゲーム会社から新作ゲームが登場してもゲームアプリの場合は、インストール数、ユーザーの継続率、課金率に影響を与えます。
厳密にはゲーム単体のKPIに、どれだけの影響を与えているのか証明できないのですが理論上では影響が100%存在するため、
最近、どんなに新作ゲーム発売、配信しても売れ行きや、インストール数が下降気味だな
と感じる程度にとどまるのですが、これはゲーム会社にとって非常に恐ろしい事態です。
過去IPのリブートに失敗すると、それまでの熱狂的なファンが一転、アンチファンになってしまいます。
なぜ歴史ある自社IPを雑に扱ってしまうのか?
ここまでの話を聞いて頂くと、歴史あるIPの取り扱いは極めて慎重に行わなければならない事がわかったと思います。
でも、そんな事は誰しも頭の中ではわかっているんですよね。でも、取り扱い方法を間違えてしまい取り返しのつかない失敗をしてしまう・・・
その原因は「わかっているようで、わかっておらず、歴史ある自社IPを雑に扱ってしまう」というところにあるとトロネコは考えます。
なぜ、歴史ある自社IPを雑に扱ってしまうのでしょうか?3つの原因があります。
ブランディングマネージャーの不在
このゲームをどうやって盛り上げてブランディングしていくのか?
多くの場合でブランディングマネージャーが存在しないケースが見られます。プロデューサーがブランディングマネージャーの役割を役割上では担う場合もあるのですが、本質的な役割を担えているのかは疑問です。
ファン目線を持った決裁者、または当時のクリエイターの不在
20年前に大ヒットした「トロネコ」のIPリブートにあたって、当時のプロデューサー、クリエイターが一切関わらない状態だと、過去の熱狂的なファンの重要性に気づかず、会社都合の新規ユーザー獲得ばかりに注力してしまうかもしれません。
名前は「トロネコ」ですが、新しい「トロネコ」はかつての「トロネコ」ではないわけですから、自社IPを雑に扱ってしまう原因になります。
利益だけを追求する会社としての姿勢の問題
ユーザーを見ず、自社の利益ばかりに目が向いてしまうと、かつての熱狂的ファンのことを理解することはできません。
会社としての姿勢の問題、ゲームを作ってこなかった人、ゲーム会社なのにゲームを遊んだこともなかった人が、ゲーム事業の決裁権を持ってしまうと、過去IPを雑に扱ってしまう原因になります。
どうすれば防ぐことができるのか
これから歴史ある自社IPを使ったゲームを企画している人に向けて、「どうすればさまざまな事故を防ぎ、リスクを回避できるのか」
3つの対策方法についてご紹介します。
現状を的確に把握して判断できるチーム体制をつくる
情報収集して、現状を分析して、的確な判断ができる体制作りを行いましょう。
そのためには、内部だけのチームだと、社内の人間関係にひっぱられて「忖度」しがちですから、外部からも人材を入れて、本質に踏み込めるチーム作りが求められます。
間違っていることに対してノーといえる環境をつくる
明らかに間違っていて、失敗する可能性が高いのに声も権限も大きい人の発言に対して「ノー」と言えないケースを多く目にします。
おかしいこと、間違っていることに対して「ノー」といえる環境を作ることも重要です。
他責ではなく、ジブンゴト化して物事に向き合う覚悟を持つ
結局のところ自社にとって貴重な過去IPを毀損させても、会社員である以上、責任を誰も取りません。減給とか降格はあるかもしれませんが、失った過去IPに対しては微々たる責任です。
命を削る覚悟でコトに向かっている人がどれだけいるのでしょうか?
他責ではなく、ジブンゴト化して物事に向き合う覚悟を持っているなら、今回紹介したような自社IPを毀損してしまうようなリスクは未然に防ぐことができます。
まとめ
最後にトロネコからアドバイスです。
古き既存ファンを満足させられないなら無理にIPを使わない判断も必要です。なぜなら、使うことで得られるメリットよりも遥かにリスクが大きいからです。
もし、歴史あるIPを使ったゲームを作ろうと思っていて、使うことによるリスクや対策方法が見えていないのであれば第三者機関にアドバイスを求めるのもおすすめです。
社内の意見はスルーされがちだけど、外部から客観的な意見をもらうと、社内を動かしやすいという事はゲーム会社においては「あるある」だからです。
トロネコでは、LINEチャットで無料相談できる「トロネコのカベウチ」を行なっていますが、どのようなリスクがあるのか?どこに注意して進めればいいのか?一度、気軽にご相談ください。
その上で、判断をするために分析が必要であれば、外部アドバイザーとしてのお仕事もご相談に乗ります。その場合はメールにてご連絡ください。
みなさまのお役に立てればトロネコは幸せです。