「D4DJ Groovey Mix」でも実施されていた「オープンβ版」施策とは
こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回のテーマは「オープンβ版」を運用しながら、本番サービスに移行するケースについてのメリットとデメリットについてお話しましょう。
オープンβからの本番サービスへの移行は
最近ではブシロードさんの新作スマホゲーム「D4DJ Groovey Mix」でも実際に行われていましたが、トロネコも同様のケースを何回か実施したことがあります。
「オープンβ版」はPCオンラインゲームにおいては、ごく普通の手法ですが
今回はスマホゲームで同様の施策を検討している方のために
考えられるデメリット、メリットを全部抽出して解説していきます。
ぜひ参考になれば幸いです。
オープンβ版からの本サービス引き継ぎ施策とは
今回のテーマである「オープンβ版」と「オープンβテスト(OBT)」「クローズドβテスト(CBT)」など、様々な種類があります。
何がなんだか、よくわからないよー
という人も多いと思いますが、実際のところゲーム業界の人でも、言葉や中身は知っていても、
それぞれのメリット、デメリット
どれを選ぶのか判断軸
については理解していない人は多いです。
簡単に表にまとめてみました。
種類 | 内容 |
①CBT(クローズドベータテスト) | タイトル発表前にゲーム会社がテストをする人を雇って実施する完全クローズドなテスト |
②CBT(クローズドベータテスト) | タイトル発表後にゲーム会社が公にテスト参加者を募って実施する人数限定のテスト |
③OBT(オープンベータテスト) | タイトル発表後にゲーム会社が公にテスト参加者を募って実施する人数の上限が基本的にないテスト |
④オープンβ版 | 課金機能など一部機能を制限した状態で実施するサービス。オープンβ版の期間の終了後、そのデータは本サービス版にそのまま引き継がれる |
⑤本サービス版 | 一般的なゲーム配信版がこれ |
①②③は製品版との連動性がなく
「④オープンβ版」は「⑤本サービス版」とほぼ同じ、シームレスにつながっていると言えます。
各施策の名称は似ていますが実施の目的や、内容は全く違うというわけです。
その昔にやったタイトルで②③のテストのデータを⑤に引き継ぐべきではないか?という議論があったのですが、データを引き継ぎ対策をしたいなら、そもそも「④オープンβ版」を実施する必要があります。
なぜなら、②③は「⑤本サービス版」とは完全に時系列で切り離されているため、「ユーザーの引き継ぎ」がそもそも現実的にできるのか?という懸念があるからです。
CBTとOBTの話は下記の記事で詳しく解説していますよー。
【おすすめ記事】【ゲームアプリ】クローズドβテスト(CBT)の設計方法(OBTとの違いも比較)
オープンβ版を実施する目的=オープンβ版のメリット
今回のテーマである「オープンβ版」ですが
その後、データは「本サービス版」に引き継ぐことがほとんどです。
以前、トロネコは家庭用ゲームのマーケターも長年やっていましたが、
体験版をプレイさせて、データを本製品版に引き継ぐことができるような施策も何度もやってきましたが、あれも
「体験版という名前をつけたオープンβ版」
といえるかもしれません。
(厳密には家庭用ゲームの体験版はプロモーション的な目的も強かったので、本来のオープンβ版としての実施かは、ケースバイケースでしたね・・・)
今回のスマホゲームにおける「オープンβ版」の目的を整理しておきましょう。
「オープンβ版」は「本サービス版」に繋がる「プレ製品版」という位置付けのため、この時点でゲーム本編の改善を目的とはしていません。
ゲームとしては完成済であり「継続率」や「ゲームの遊び」といった部分も「オープンβ版」の目的にはなりません。
たぶん「オープンβ版」以前に、ゲーム会社の社内でCBTを実施するなどして解決して、「継続率」や「ゲームの遊び」については解決済と考えるのが普通です。
「オープンβ版」はゲーム本編の修正が目的ではない
ここはまず押さえておきましょう。
もし、ゲーム本編の修正が目的になっているようであれば、オープンβ版ではなくCBTなどをクローズドで実施することをおすすめします。
こんな状況でも「オープンβ版」を実施する理由は次の2つに集約されます。
・サーバー負荷テスト
・壊れアイテムやキャラクターのバランスチェック
いわゆる「オープンβ版」の目的はサービス直後に想定される致命的な危機を回避する最終チェックというわけです。
ゲーム会社によっては強固なゲームサーバーを既に持っており「サーバー負荷テスト」がそもそも不要というケースもありますが、この場合はサーバーの物理的な負荷テストというよりは、大人数でプレイした場合にサーバープログラムが適切に動作するか「最終チェック」という点も含まれます。
もちろん「オープンβ版」以前に様々な方法で「サーバープログラムの動作テスト」は実施していますが、それでも実際に大人数で動かしてみないとわからない場合もありますので、そういった目的で「オープンβ版」は実施されることがあります。
ただし、「オープンβ版」でこれよりも重要としているのは
「壊れアイテムやキャラクターのバランスチェック」
にあります。
ゲームジャンルによってもこの重要度は変動しますが、ひとつの壊れアイテムやキャラクターの存在がゲームコンテンツの消費スピードや、マネタイズに大きな影響を与えるケースが多々あるからです。
のちほど説明しますが「オープンβ版」には、実施する価値はありますので多くのゲーム会社は検討しているかもしれませんが、実はデメリットも多いため、
海外で先行配信して、その結果を「オープンβ版」の代わりとしてのデータに活かす
というケースもあります。
例えば日本とゲームユーザーの属性(課金率、嗜好性、継続率)が違い台湾で先行配信して、そこに「オープンβ版」としての役割を期待するケースもあります。
その他、「オープンβ版」については他にも目的が考えられます。
・期待値醸成(事前盛り上げ)
オープンβ版をプロモーションの一部として活用して
配信直前に盛り上げ、期待値醸成を作るという考え方です。
これは理論上はありえますが、メリット、デメリットの両方が存在します。のちほど、それについては解説しますね。
・事前ダウンロードの促進
最近はアプリの容量の肥大化によって配信直後にアプリをダウンロードしたくてもWiFi接続でないとダウンロードができないというケースも増えてきました。
「オープンβ版」は配信前に一度アプリをダウンロードすることで、ダウンロードに必要な時間を体感できるため、アプリ配信後に再度、「⑤本サービス版」をダウンロードしなくてはならないとしても、一度経験しているがゆえに、ユーザーはストレスなく、離脱を軽減しながらダウンロードできるという点は想定されます。
つまり「オープンβ版」のメリットについてまとめると
①配信直後の致命的な問題を修正、回避できる★★★★★
②期待値醸成(事前盛り上げ)★★
③事前ダウンロードの促進★★
といった点が挙げられます。
★の数は効果の大きさを表しており、多くのケースで①をメリットとして実施していますが、中には②③まで考えられているケースもあるでしょう。
オープンβのデメリット
「オープンβ版」ってメリット多そうだし、うちでも検討しようかな
ここまで読んで頂いて、このように感じた人も多いかもしれません。
しかし、実は「オープンβ版」にはデメリットも多く存在します。
このデメリットと、先ほどお話したメリットを踏まえた上で実施検討をするようにしましょう。
【デメリット1】工数(お金、人)がかかる
オープンβ版の実施は工数がかかります。
人やお金がかかるというわけです。
これによって、本来やるべき他のことに影響が出てしまうこともあります。
逆を言えば「オープンβ版」ができる状態は
「お金」「人」の問題はクリアされており
開発スケジュールが守られているという
理想的な状況ができているゆえに、実施できる
とも言えるかもしれません。
【デメリット2】もっとも課金意欲が高いタイミングを逃す
オープンβ版をプレイする多くの人は「事前登録」をしている人であり、そのゲームに対する熱量は半端ない状況と言えます。
熱量が高い=プレイ意欲が高い=課金意欲が高い
ということであり
実際にゲームが配信された直後が、そのゲームの生涯において最も課金意欲が高いタイミングであることは、あらゆるゲームのKPIが証明しています。
つまり、「オープンβ版」をどのくらいの期間実施するかにもよりますが
もし「オープンβ版」で課金ができない状況だとすれば
そのゲームでもっとも課金してくれるタイミングを自ら「オープンβ版」のために差し出しているとも言えるのです。
【デメリット3】オープンβ期間で課金ができない場合は継続率に影響する
「オープンβ版」の多くは「本サービス版」とビルド(ゲームアプリのロム」が異なる場合があるため、課金できないケースが多いのですが
課金できない場合は継続率に影響を与えます。
なぜなら、
強くなりたい、もっと上を目指したい=課金する=プレイ意欲=継続率
という構造が成立するからです。
もちろん、「オープンβ版」の多くは「本サービス版」にデータ引き継ぎができるケースが多いため、「データ引き継ぎ」ができるゆえに、課金はできなくてもプレイ意欲がそこまで下がらない、という事も想定されますが
アプリ配信直後で課金できない状態は「継続率」に影響を与えるという事は押さえておきましょう。
これを裏付けするデータとしては
CBTは通常以上の継続率が出やすいが
それは先行プレイを目的にしたユーザー心理による継続率の上ブレであり
もし、CBTを2回実施すると、継続率は大きく下げてしまうからです。
これは「本サービス版」へのデータ引き継ぎができないための「頑張っても無駄な作業に過ぎない」というユーザー認識もありますが、課金機能がない状態では「本気でゲームをプレイする気になれない」というユーザー心理も影響するからです。
【デメリット4】オープンβでも必ずユーザーは離脱する
本サービス版でも配信翌日には50%、1週間には70%のユーザーがやめてしまいます。
【関連記事】【継続率リテンション改善】辞めさせないゲームマーケティングの設計方法【インストール翌日に半分辞めます】
この50%とか70%という数字は、あくまでも仮の数字ですが、基本プレイ無料のゲームゆえに、インストールした直後から次々とユーザーは離脱していきます。
本サービス版でもユーザーは辞めるわけですから
もちろんオープンβ版でもやめます。
わかりやすいように表にしてみるとこんな感じになります。
7日間「オープンβ版」を実施して
その後、本サービス版に移行するとした場合、本サービス版移行の初日はday1ではなく、day8になるわけです。
もし1週間で70%が辞める継続率だとするならば
day8の時点で70%は辞めている計算になります。
「オープンβ版」とは、あくまでも企業側の定義であり、ユーザー視点では、期待しまくりのそのゲームが遊べる状態である事には変わりないのです。
よって、「オープンβ版」とはいえユーザーは面白くないと感じたらゲームを辞めるでしょう
実際のところ「オープンβ版」の場合は、これらを見越して様々な復帰施策を「オープンβ版」から「本サービス版」の間にかけて投下します。
また「本サービス版」になってからゲームを始める人も多いので
よって必ずしも1週間後に70%のユーザーが辞めている状態とは言えません。もっと継続率は良くなる可能性もあります。
しかし、先ほどお話をした通り
課金ができない状態も継続率に影響しますので、総合的に考えた上で「オープンβ版」はユーザーが離脱しやすいので、これらをデメリットをして認識しながら、打ち手を並行して考える必要があります。
このように「オープンβ版」は売上や継続率に影響があると考えられます。
ただし、「オープンβ版」実施による売上や継続率の損失は数字として可視化できません。
実施した場合、実施しなかった場合を比較できないので
結果的にサービス初月で数字的な売上が出れば、オープンβを評価してしまう傾向があります。
しかし、その数字が本来獲得できた最高点かというと、そうではない場合もあります。
よって、オープンβからの本サービス移行は何かしらKPIに影響を与えるリスクがあるということを前提で、どうすればリスクを軽減できるのか検討する必要があります。
そもそもオープンβは必ずしも行う必要はない
ここまでオープンβ版の話をしてきましたが
オープンβ版は必ずしも行う必要はありません。
究極的には一般的なCBT、OBTもやる必要もないのです。
これらの施策は
アプリを配信するからには「必ず何かしらやらなければいけない」
ではなく
やらなければいけない理由があるから実施する
といった考えの元で実施判断をする必要があります。
やらなければならない「理由」や「目的」があるから「オープンβ版」「OBT」「CBT」を実施するわけですが
アプリ配信まで上記の施策を一切やらず、完全クローズドな社内テストだけでも同様の効果を生むことはできます。
CBT、OBTもメリットとデメリットがありますので、それを踏まえた上での判断が必要です。
【おすすめ記事】【ゲームアプリ】クローズドβテスト(CBT)の設計方法(OBTとの違いも比較)
まとめ
今回、「オープンβ版」施策のメリット、デメリットについて解説してみました。
もちろん、ここに書いてあることが全てではないですし、ここに書いていない別軸の考え方もあります。
重要なのは実施の「目的」と「役割」を考え
メリット、デメリットを踏まえた上で判断することです
今後、実施を検討している皆さんの参考になれば幸いです。
というわけで今回はここまで!