こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回のテーマはWeb広告で用いられる
広告費の回収率を表すROASという指標を説明しながら、スマホゲーム事業においてはROASよりも、宣伝費に対する利益率を表すROIを重視すべきというお話をします。
なぜ、このような話をするかというと
ゲーム業界のマーケターと話をしているとROASを軸にした広告費の回収率の話が出てくる事が多いからです。
しかし、ROASは売上を軸に考えた指標であり、
ゲーム事業の目的は売上ではなく利益を最大化する部分にあります。
そして、利益を最大化するための方法は「広告」といった手段に限らず、ゲーム開発や、広告金額と比例しないプロモーション施策などが存在します。
トロネコは常々
「マーケティングとはモノが売れる仕組みづくり」であり
それは「3つのマーケティングプロセスから構成される」
とお話していますが、ROASはその中の一部である
「広告経由によるユーザー獲得による売上作り」に限定された「広告業務のひとつ」であり、ここに縛られてしまうと、マーケティングの本質を見失い、マーケターとして事業貢献ができない恐れがあると考えています。
決してROASという指標自体を否定しているのではありません。
ROASを見てもいいけど、ROIを最重要で進めた方がスマホゲーム事業においては大きな間違いがなく、本質に踏み込めるという話をします。
ほとんど結論を先にお伝えしてしまいましたが、その中身についてこれからご説明していきましょう。
ROASとは
ROASとはReturn on advertising spendの頭文字を取った言葉であり
かけた宣伝費で得られた売上の割合をパーセンテージで表現したものです。
ROAS = 広告経由売上÷宣伝費×100
数字はパーセンテージで出されます。
この式が基本となり、「広告経由での売上がいくら必要?」「適切な宣伝費はいくらなのか?」といった場合に次のような式でも算出できるようになります。
広告経由売上 = 宣伝費×ROAS÷100
宣伝費 = 広告経由売上÷ROAS÷100
スマホゲームにおけるROASの使い方
ROASは次の以下で算出できますので
ROAS = 広告経由売上÷宣伝費×100
例えば以下のような式が成立します。
100%(ROAS) = 1000万円(広告経由売上)÷1000万円(宣伝費)×100
200%(ROAS) = 1000万円(広告経由売上)÷500万円(宣伝費)×100
50%(ROAS) = 1000万円(広告経由売上)÷2000万円(宣伝費)×100
つまりROASのパーセンテージは最低100%を超えて、どこまで目指すか基準を決めることで広告による売上貢献度を評価します。
ROASのメリットとデメリット
ROASのメリットは売上に対する広告の貢献度がわかる点に集約されます。よってROASの高い広告に宣伝費を寄せて、低い広告は改善をする、といったROASによる判断ができます。
ただし、これは一般論でありスマホゲーム事業ではデメリットの方が大きいのです。
なぜならスマホゲームの場合は以下のような特性があるからです。
・基本プレイ無料であるため広告で獲得した全ユーザーが売上貢献するわけではない(そもそも広告で獲得不要なユーザーも含まれているため無駄も存在する) |
・売上は新規ユーザー、既存ユーザー、復帰ユーザーによってつくられる (広告で見た目の売上が上がったように見えても、それはゲーム内運用による既存ユーザーによって支えられている可能性もある) |
・スマホゲームの場合、売上は瞬間的ではなく長期的にLTVという形で表現されるので広告投下の当月だけでは判断できない。(さらにゲーム設計や、獲得ユーザーの状態でもLTVの金額や、そのLTVの金額を達成する進行速度が異なる) |
・ROASは広告費に対する売上貢献に限定した指標のため、ROASは高くても利益が出ていない赤字状態がある |
ROASは全く使えないとはいいません。ただしトロネコは20年間のマーケティングキャリアの中でROASはあえて使わないようにしてきました。
なぜなら、ROASの数字だけを追ってしまうと次のようなリスクがあるからです。
・ROASは広告手法、広告出稿のテクニックで作れる数字である |
・作られた数字はスマホゲームの事業全体ではプラスとは限らない |
・ROASはプロモーション宣伝担当としての「役務」に特化した指標である |
つまり、ROASばかりに目が行ってしまうと「ゲームマーケティング」としての本質からズレてしまいます。
宣伝費による売上貢献から算出されるROASについてもう少し深く踏み込んで説明してみましょう
・スマホゲームの見た目の売上は宣伝費で作れます。 |
・作られた売上であっても会社は評価対象としがちです。 |
・その結果、プロモーション担当は宣伝費を使うことが目的になりがちです。 |
・しかし、スマホゲーム事業としてみた場合、数年単位の長期運用が重要です。 |
・瞬間的な売上を作るために投下された宣伝費は、そのゲーム事業の未来における「負の遺産」となって、会社も未来の担当者も苦労します。 |
ここまで踏み込むと、少なくてもスマホゲーム事業にROASという考え方を採用するわけにはいかないのです。実際にトロネコが働いていたゲーム会社でもROASは採用せず、これからお話するROIを採用してきました。
しかし、ROASという考え方を採用しているゲーム会社のプロモーション担当は多いのです。
でも、冒頭でお話した「マーケティングの定義」「3つのマーケティングプロセス」を知れば知るほど、ROASという考え方が、他の業界ではわからないですが、少なくてもゲームマーケティングにはマッチしない事に気づきます。
「マーケティングの定義」「3つのマーケティングプロセス」についてはこちらの記事で解説しています。
ROIとは
ROIとはReturn on Investmentの頭文字を組み合わせた言葉であり、かけた宣伝費で得られた利益を示す指標です。その広告という名の投資は利益を出せているのか、判断する指標として使えます。
ROI=広告経由利益÷宣伝費
となります。
例えば以下のような式が成立します。
ROI1.0 = 1000万円(広告経由利益)÷1000万円(宣伝費)
ROI2.0 = 1000万円(広告経由利益)÷500万円(宣伝費)
ROI0.5 = 1000万円(広告経由利益)÷2000万円(宣伝費)
ROASが「売上」から算出される数値である一方で、ROIは「結局のところ儲かるの?儲からないの?」を判断できます。
どんなにROASが高くても利益が出ない状況であれば、宣伝費を投下の判断できません。
ROIのメリットとデメリット
実はROIのデメリットは厳密にはありません。(スマホゲーム事業においては厳密には見つかりません。ただし一般論としてのROIしてみた場合、その他異業種ではありえるようです)
とはいえ、あえてデメリット挙げるとすれば、スマホゲームにおける適切なROIの指標を算出し、それを実運用するには、相応のスキルが組織に求められます。
ROASよりもゲーム事業そのものに踏み込んだ対応が必要であるため、宣伝担当だけでは本質に踏み込めず、ゲーム開発、分析担当とも連携が必要です。
(ROASなら指標としてすぐに算出できるけど、スマホゲーム事業でROIを本気で採用するなら、組織として本気モードになる必要があるよ!みたいな感じです)
例えば次のようなスキルがゲーム事業の組織に求められます。
・そのゲームにおける特定期間におけるLTV算出 獲得タイミング、ゲーム内運用、仕様で変動するため随時算出ができる体制が必要 |
・獲得経由ごとのLTV算出 オーガニックユーザー、広告経由獲得ユーザー、さらに新規ユーザーか復帰ユーザーによっても変動するため随時算出できる体制が必要 |
※LTV(Life time value:ユーザーが生涯平均ゲーム内で使う金額)
よって計算式のうち、真ん中の利益の部分がLTVという将来における獲得ユーザーの見込み課金額に置き換わって算出が必要となります。
ROI1.0 = 1000万円(広告経由利益)÷1000万円(宣伝費)
↓
ROI1.0 = 1000万円(広告経由で獲得したユーザーの見込みLTV)÷1000万円(宣伝費)
LTVは180DayLTV、90dayLTVといったように、そのゲームのプレイサイクルによって日数も異なります。獲得したユーザーがそのゲームを遊びつくして離脱する平均日数なども算出しなければなりません。
ROASの場合は瞬間的な売上だけで判断しますが、スマホゲーム事業におけるROI特定期間におけるLTVを利益の指標として使って判断するのです。
ゲーム業界以外における一般的なROIという指標については、長期期間における評価指標には向かないという意見もありますが、この一般論とスマホゲーム事業における考え方は「必ずしも一致しない」という点は押さえておきましょう。
ROIの意識が高まるとFCFという考え方に深化する
FCFという言葉をご存じですか?
FCF(Free Chas Flow:フリーキャッシュフロー)とはコーポレートファイナンスで使われる用語です。
スマホゲーム事業は、各タイトルそれぞれはひとつの会社のようなものであり、FCFをどこまで確保するかがそのゲームの事業の継続性を決めます。
FCFとは利益からゲーム運営に必要なコストを投資した後の余剰資金であり、FCFこそが、そのゲーム事業の純粋な儲けであり、かつそのゲームの将来の儲けを生み出すために投資できる資金(開発費や宣伝費)なのです。
いきなり聞きなれない言葉が出てきたと感じるかもしれませんが、ゲーム開発者、マーケターもゲーム事業の本質に踏み込むにはFCFという考え方は必要です。
ROIの意識が高まるとROI1.0を切るプロモーションの必要性も検討できる
基本的にROIは1.0を超えないと意味がありません。
例えば以下の式を例に挙げて説明していきましょう。
ROI1.0 = 1000万円(広告経由で獲得したユーザーの90dayLTV)÷1000万円(宣伝費)
宣伝費をかけて獲得したユーザーが獲得から90日間で得られる利益が宣伝費と同額の場合、そもそも、そんなユーザーは獲得する必要がないという事になります。
なぜなら1000万円投資して90日後に1000万円戻ってくるだけだからです。これは、もはやビジネスではありません。
よって、企業によって設定指標は異なりますがROI1.2から1.5を最低ラインとして設定し、ここを割るプロモーションは実施する価値が低い(実施しない)と考えられています。この数字は企業によってバラバラです。
しかし、 ROIの意識が高まるとROI1.0を切るプロモーションの必要性も検討できるようになります。
これは一見矛盾しているように思えるかもしれませんが、スマホゲームは基本プレイ無料の課金型ビジネスであり、かつ長期運営によって達成される「継続型ビジネス」です。
こちらでイノベーター理論やペルソナ分析の話をしましたが、ざっくり答えをお伝えすると
「マーケティング戦略次第だが、ROI1.0を切るプロモーション活動も必要なフェーズもありえる」
「今月のプロモーションはRO1.0を切るけど、3か月、6か月単位で平均値をならせばROI1.5を超えるので、それを達成するには今月はROI1.0を切っても数を取りにいくプロモーション判断もありえる」
といった感じです。
この話をすると非常に長く、かつ複雑になるので今回はしませんが、ちょっとだけヒントをお伝えしましょう。
「使っているLTVはあくまでも広告経由で獲得した課金、無課金ユーザー全体の平均値である」
「課金ユーザーや質の高いユーザーは欲しいけど、無課金ユーザーは本人は無課金でLTVを下げる役割を短期的にはなっていても、長期的にはLTVを押し上げる役割を果たす場合も、方法もある」
といった感じです。
イノベーター理論や、各フェーズを構成するユーザーのペルソナ分析までに踏み込むと、ROIを下げてもそのユーザーを獲得するだけの事業メリットがあるフェーズがある、というわけです。
そして、これらの判断を決めるのが「マーケティング戦略」です。
利益を取らず、いまはユーザーを獲得すべきだ
そして多くの人に遊ばれている状態をつくるべきだ
といった「あるべき論」の会話にたびたび遭遇しますが、マーケティング戦略やROIでも表現できますし、そういうバックラウンドを用意した上で「あるべき論」は議論されないと意味がありません。
まとめ
というわけで今回、「スマホアプリマーケティングではROASではなくROIを重視するべき」という話をしました。
最後にひとつだけ知って欲しいのは一般的なROAS、ROIの考え方はそのままゲーム事業、ゲームマーケティングには使えないという点です。
Webを検索しても、ゲーム事業にカスタマイズしたROAS、ROIの考え方は出てきませんし、見つけられる内容のほとんどが特定業界に依存しない「一般論」で語られています。
それらをそのまま使うのではなく、自分がやっている事業にカスタマイズして活用するようにしましょう。そして、指標は自分で新たに設定して作り出してもいいのです。
なぜなら、ゲーム事業もそうですが、本質に踏み込めば踏み込むほど、正解だと思っていたことが、不十分だと気づくからです。
というわけで今回はここまで!