こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回は3回にわけて連載企画で「ハートドリブン」と「ロジカルドリブン」のメリット、デメリットについてお話します。
トロネコは家庭用ゲームとスマホゲームの両方でマーケターをやってきました。その結果、感じたことは
家庭用ゲームのは「ハートドリブン」思考
スマホゲームは「ロジカルドリブン」思考
という傾向がある点です。
原因としてはそれぞれのゲーム事業を行う会社の特徴や、構成する人材の生い立ち、会社が成長してきた歴史にも大きく影響を受けていると思われますが、今回の連載企画の結論としては
「ハートドリブン」と「ロジカルドリブン」の融合こそ最強
この両方を持っているゲーム会社は重要
といった話を3回目の最終回でしたいと思います。
というわけで、第1回目は「ハートドリブン」についての話です。
【目次】 ・ハートドリブンとは何か? ・ハートドリブンのメリット ・ハートドリブンのデメリット ・ハートドリブン思考を組織に浸透させる方法 ・まとめ |
ハートドリブンとは何か?
そもそも、ハートドリブンとは何か?という話ですが「ハートドリブンとは人の心を動かす力」と定義できます。
ゲームの歴史を「家庭用ゲームの歴史」とするならば、家庭用ゲームは歴史的に「ハートドリブン」で人の心を動かすことで成長してきました。
(家庭用ゲームに限らずアーケードゲームも「ハートドリブン」ですね)
「マリオも、ドラクエも、FFも」作り手が「面白い」と思ったものを作り、世の中に出した結果、成功を収めてきました。その面白さの一部は「計算されて作られていたとしても」根底にあるものは「作り手が心の底から遊びたいもの、作りたいものを作っている」ことには違いありません。
まさに「ハートドリブン」です。
実際にゲームをプレイする人は、作り手の思惑を汲み取りながらプレイしたりしません。純粋に「楽しい」「楽しくない」、その結果「心が動いた」「動かない」ただ、それだけでゲームを遊びます。
つまりプレイするユーザー側も無意識の中でゲーム自体に「ハートドリブン」を期待しているわけです。
しかし、2000年代後半になると、ガラケーによるソーシャルゲームや、スマホゲームが台頭してきたあたりから変化が現れます。それまで「ハートドリブン」だけで作られてきたゲームの世界に「ロジカルドリブン」が取り入れられるようになりました。
「ロジカルドリブン」にもメリット、デメリットがありますが、これは次回の記事でお話しましょう。
ハートドリブンのメリット
ハートドリブンには大きなメリットがあります。
ゲームの歴史を振り返るとゲームは「ハートドリブン思考」で作られてきたわけですがら、「ハートドリブン」には面白さを作り出す力があることが証明されているともいえます。
そんな「ハートドリブン」のメリットは次の2つに集約できます。
【①世界を変えるプロダクトを作り出す可能性がある】
歴史を変える大ヒットは、ハートドリブンで作られてきたものばかりです。
なぜなら、ハートドリブンは「楽しさ」「驚き」「いままでにないゲーム体験」といった
「ゲームファンの期待値を超えるコンテンツ提供に繋がっているからです」
市場調査やユーザーリサーチから導き出した「面白さの種」はユーザーの過去体験に基づく「顕在ニーズ」しかわかりません。ゲームファンの期待値を超えるために必要なユーザーの心の底に眠っている「潜在ニーズ」の抽出は不得意な領域です。
【参考記事】ゲーム事業における顕在ニーズと潜在ニーズの違い
よって世紀の大ヒットは「ロジカルドリブン」では生まれにくく「ハートドリブン」が得意とする分野です。
売上や利益優先から導き出した「ゲーム開発」は、無駄を省いた効率重視のゲームビジネスには適していますが、一方で売上や利益を阻害する無駄を省く傾向にあります。実は「ハートドリブン」によって生まれる「面白さ」の多くは論理的には説明が難しい、人間の感情に訴えかける「一見すると無駄なモノ」から構成されている事が多いのです。
そんな「一見すると無駄なモノ」は特にスマホゲームにおいては排除されやすい傾向があります。
よって、「歴史を変えるような大ヒットはハートドリブンからしか生まれない」「ハートドリブンこそ歴史を変えるような大ヒットを生み出す有効手段」ともいえます。
これってちょっと「ハートドリブン」を過信しすぎかもしれませんが、でも、現在のゲーム業界を支えている超優良IPは基本的に「ハートドリブン」から生まれたものばかりです。
【②楽しく働けて楽しい人生を送れる】
ハートドリブンのもうひとつのメリットは「人や組織」に関する部分です。
トロネコは「ハートドリブン思考」が強い「家庭用ゲーム会社」と、「ロジカルドリブン思考」が強いの「スマホゲーム会社」といった両極端な会社で20年に渡って働いてきましたが、その中で確信したことがあります。
「ハートドリブン」だと人の能力を引き出しやすい。
「ロジカルドリブン」でも人は動かせるが、想定を超えた結果まではだしにくい。
という点です。
一般的に管理職は「ロジカルドリブン思考」です。
これは管理職という役割上、「ロジカルドリブン」にならざるを得ない事情はありますが、し一方で、現場は「ハートドリブン」だったりします。
よって、論理的思考を押し付けて、現場を動かしても人間は心の底から行動しません。
実際にあった「ロジカルドリブン」なマネージャーの例をあげてみましょう。
「会社員だから、プロだから、気の進まない仕事もやるのが先決でしょ」「やりたい事はそれをやってからにしてください」
このような話を部下に言うマネージャーは多いと思いますが、これは管理職としては正しいのかもしれませんが、会社の事業を成功させる手段としては適切ではないのです。
なぜなら、人は動いても、その人の能力を使い切れないからです。
長い間、ゲーム業界で働いてきて分かったことは
「人間はモチベーションでしか動かせない、モチベーションがない状態で動かせても仕事はしても、良い仕事をしない」
という事です。特にクリエイター系の仕事をしている人はこの傾向が強いです。
ハートドリブンでモチベーションが上がる仕事ができないとアウトプットが全然違うという話です。これはゲーム開発、Webクリエイターあらゆる職種に言えます。
具体例を挙げてみると
Webデザイナーにバナーデザイン制作を発注するとしましょう。作って欲しいのは「物質的なバナー」そのものではなく、「相手の心を動かすバナークリエイティブ」であり、そのバナーによってゲームの魅力を伝えた結果、売上を上げる事が最終目的です。
前出のマネージャーの会話を再度引用してみましょう。
「会社員だから、プロだから、気の進まない仕事もやるのが先決でしょ」「やりたい事はそれをやってからにしてください」
この言葉は「物質的なバナー」を作ることを目的とした発言であり、バナーという物質を手に入れることはできても結果がついてきません。
「ハートドリブン思考」は相手の心を動かし、気持ちよく仕事ができて、かつ最高のパフォーマンスを発揮してくれます。
よって、トロネコはクリエイターに仕事の相談をする時は必ず
「どうやったら、このクリエイターのテンションを上げられて、ワクワクしながらこの仕事を受けてもらえるだろうか・・・」
という事を最優先で考えてから相談するようにしています。
ハートドリブンのデメリット
大きなメリットがある「ハートドリブン」ですが、一方でデメリットもあります。主な4つのデメリットについて説明してましょう。
【①ハートドリブンは言語化して伝えにくく、特定の人に依存する】
ハートドリブンの多くが「ふわっとした精神論」に陥りやすく、言語化できても多くの人に理解できる形で伝えにくいという欠点があります。
分かりやすい例を挙げると
天才ゲームクリエイターがいても、その人の考えを理解して組織に浸透させるのはハードルの高い話です。天才ゲームクリエイターの感性と世界のトレンドがマッチしている間は結果は出やすいのですが、そこがズレてくると全く結果がでなくなるように、特定の人に依存する傾向があります。 |
これはゲームに限らず、映画や音楽プロデューサーでも当てはまる話です。
仮に「ハートドリブン」を引き出す方法を「言語化」できたとしても、それを「日常の実務レベル」までに落とし込むハードルが高いものです。
「考え方には賛成するけど、日常の業務にどうやって、それを活かせるの?」
という疑問とそれに対する課題が出てきます。
こちらの「振り返りの重要性」の記事でも書きましたが、頭の良さ、学歴とか関係なく多くの人が「ジブンゴト化できるレベル」までに落とし込めないと、活用できないのです。
アンケートを取ると多くの人は「ハートドリブンっていいね!」と答えますが、でもそれとセットで「どうやって実務に活かしたらいいのかわからない」とか「活かす機会がない」といった疑問も持つのです。
よって「ハートドリブン思考」は「形骸化」してしまう可能性が高く、素敵な思想であっても「状態を変えられない」場合が多いのです。
【②ハートドリブン先行によって間違った判断をするリスク】
「ハートドリブン」を優先してしまうと、論理的に冷静に考えれば、撤退するべきプロジェクトにもOKを出してしまう場合があります。
厄介なのは「ハートドリブン」で結果を出した人の意見が通りやすかったり、本人が推奨するプロジェクトが通りやすくなってしまう傾向があります。その結果、大きな損失を発生させるケースを長いゲーム業界の中で何度も目にしてきました。
「冷静な判断ができない状態なのに、ハートドリブンこそ正しい行為」
と勘違いしてしまい、盲目に推進してしまう瞬間が出てきます。
会社経営が上手く行っている時は、このような間違いも成功の中で隠れてしまうので、大きな火傷になりませんし、失敗に対して真摯に反省する時間も疎かになりがちです。
しかし、会社経営が上手くいなかなくなってくると、ハートドリブンに依存しすぎたツケが、会社が傾くほどの大火傷として返ってくる事があります。
【③ゲーム事業における平均的な成功確率が低い】
家庭用ゲームは「ハートドリブン依存」が強かったため、毎年、数多くのゲーム会社がハートドリブンで新規タイトルを作るのですが、ほとんどのタイトルが失敗しています。
完全新規タイトルでヒットがでるのは2年に1本くらいのペースであり、表に見えないだけで無数の屍がそこら中に転がっているのです。これは常にヒットを飛ばしているように見えるゲーム会社でも同じで、新規タイトルの9割が失敗するのです。
一方で、既存タイトルの続編や、既存タイトルのエンジンを再活用したガワ替えなど、ハートドリブンではない「ロジカルドリブン」によって作られたタイトルは安定した結果を残しやすい傾向にあります。
これはスマホゲームも同じで、あるゲームシステムが売れるとガワ替えが大量発売されます。
なぜ、ハートドリブンで作られたゲームの成功確率が低いのか、その理由は複数ありますが、わかりやすい例をひとつあげると
「一般ユーザーが求めていない、または理解できないゲームを作ってしまう」 「理解できる人数が限られてしまい事業として成立しないものを作ってしまう |
ということが挙げられます。
「こういうものが楽しい」という作り手の想いを優先しすぎてしまう事がハートドリブンでは起こりうるのです。
【④HOW思考が先行し、結果にコミットしない】
数字に弱いけど、情報感度が高く、感情で動くWebのクリエイティブディレクターと仕事をしたことがあります。
想像もつかない面白いアイディアが次々と出てきて、バズるWebコンテンツが作れそうなのですが、HOW思考が先行するので次の2つがどうしても軽視されがちです。
・実現性の問題(フィージビリティ) |
・事業貢献の問題(数字に対するコミット) |
こちらの記事でも書いていますが、HOW思考に陥ると進むべき道を間違ってしまうので、仮にバズってもその施策の本来の目的を達成することができません。
結果的に自分たちの作りたい仕事はできるけど、事業貢献にコミットしない状態(貢献できない状態)が作られてしまう恐れがあります。
このように、ハートドリブンには様々なデメリットが存在し、中には致命的な事態に繋がる場合もあります。
しかし、ここを「ロジカルドリブン」が補ってくれます。
そんな「ロジカルドリブン」については次回お話しますね。
ハートドリブン思考を組織に浸透させる方法
話を戻しましょう。
大きなメリットがある「ハートドリブン」ですが、組織に浸透させるのは容易ではありません。事業責任者が「こうあるべき姿」を日々、言い続けるのは大前提ですが、それだけでは現場を動かすのは難しいのです。
「とはいえ言い続ける事でなんとかしよう」
という考え方はわからなくないですが、時間がかかりますし、変化の速いゲーム業界では時間をかけている余裕はありません。10人程度の会社ならまだしも、数百人以上になると物理的な限界があります。
これは、ハートドリブンに限らず、トロネコが長年に渡ってマーケティングマインドを組織に浸透させようと努力してきたのと同じです。
そこでおすすめなのは「こうあるべき姿」を「具体的な業務レベルまでに落とし込んで日々の業務の中で伝える」という方法です。
「自分の日常業務において、どうすることがハートドリブンなのか?」
各メンバーの職種、役割、フェーズ、スキルレベルになどにあわせて「ジブンゴト化」できるレベルまで噛み砕いて伝える必要があります。
こちらの「振り返り」の話でも「ジブンゴト化するヒント」について触れていますが、ここに踏み込めるかが重要です。
まとめ
「ハートドリブン」は今後のスマホゲーム事業においては重要になります。なぜならスマホゲームは、どんどん家庭用ゲーム化していくことは間違いないからです。
そして「ロジカルドリブン」だけで結果を出してきた会社は今後、相当苦戦するのは間違いありません。
しかし、「ハートドリブン」は何十年という家庭用ゲームの歴史を振り返ってみても「ヒットの確率」が低いので、数年に1本、時には10年に1本くらいしか世界を変えるような大ヒットを生み出せません。これは大ヒットを出したゲーム会社が2本目のヒット創出に苦戦している事からも説明できます。
よって、これからは「ハートドリブン」「ロジカルドリブン」を融合して使いこなせるゲーム会社が圧倒的に強い時代になります。
この点については明日公開の「ロジカルドリブン」の記事でお話しましょう
というわけで今回はここまで!