アニメファンがゲームのターゲットにならない理由【失敗するメディアミックス】
こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
突然ですが質問です。
こんな事ありませんか?
ケース1 | とある有力アニメ版権を使ったゲームを開発する。 よって、とある有力アニメを見ている視聴者をこのゲームのメインターゲットユーザーに設定しよう。 |
ケース2 | 自社でオリジナルアニメ、そのゲーム化の両方を立ち上げる。 よって、アニメを見ている視聴者をこのゲームのメインターゲットユーザーに設定しよう。 |
いずれも間違ってはいないのですが
最初に結論をお伝えするとそのアニメの視聴者やアニメファンの多くが、
そのアニメをゲーム化したスマホゲームをインストールしてくれません。

なぜなら「アニメ」「ゲーム」はあくまでも、そのIPを楽しむ手段の一つに過ぎないからです。
よってアニメ好き=ゲーム好きとはなりません。
これは市場調査やユーザーインタビューをずっとやってくると「気づく」ことです。※IPって何?という方はこちらを参考にしてください。
よって、アニメ視聴者をゲームのメインターゲットユーザーと前提した上で市場調査をするとバイアスがかかった調査結果になったり、本質に踏み込めない不完全な調査になったりします。そして、その調査結果だけを元にゲーム開発や、マーケティング戦略を作成すると間違った方向に進んでしまいます。
(これは、「ゲーム業界あるある」なのでトロネコの場合はそうならないように調査担当にも軌道修正をかけます)

なぜなら、繰り返しお伝えすると、アニメもゲームもそのIPを楽しむ手段の一つに過ぎないからです
そこで、今回は
・ゲームとアニメの関係とは何なのか?
・事業全体におけるアニメの役割は何なのか?
・アニメをどのように活用すればゲーム事業に貢献できるのか?
といった、いわゆるメディアミックスの領域に踏み込んだ話をします。
実はトロネコはメディアミックスの経験も豊富なので、経験を踏まえて、みなさんの参考になる話ができればと思います。
【目次】 ・IP展開におけるゲームのポジションを整理しよう ・ゲームとアニメの相互関係を整理しよう ・ゲームとアニメのメディアミックスが失敗する典型的なケース ・ゲーム事業に貢献できるアニメの使い方 |
IP展開におけるゲームのポジションを整理しよう
「とある有力アニメ版権を使ったゲームを開発する」
「自社でオリジナルアニメ、そのゲーム化の両方を立ち上げる」
どちらにおいても、IP展開におけるゲームのポジションを理解しておくと間違った判断を回避できます。
簡単ですが図を作ってみました。
ご覧の通り、ゲームはそのIPを楽しむため数ある方法のひとつに過ぎません。他にもいろいろな楽しみ方があります。
ゲームを作っている側からすると「ゲームが主役」であるように見えますがユーザー目線では「ゲームは楽しむためのひとつの手段」に過ぎないのです。
※どうして「ゲームが主役」に見えるかというと、ゲームが圧倒的にIP展開における事業貢献(売上利益)比率が高いから、そう見えてしまっているのかもしれませんが、これが見誤る大きな原因です。
冷静になるとそうですよね。
その作品の漫画を読む人が必ずしもゲームを遊ぶわけではないことは
漫画の平均発行部数と、そのゲームのDAUが必ずしもイコールではないことからもわかります。
よってアニメ視聴者=ゲームのメインターゲットとすると市場調査設計、マーケティング戦略も大きく見誤る恐れがあります。
この点について、次のパート以降でお話しましょう。
ゲームとアニメの相互関係を整理しよう
ゲームとアニメの相互関係について深く考えていくと、アニメ視聴者がゲームに期待すること、ゲームをインストールする動機を探ることができます。
アニメ視聴者視点で期待すること
アニメのストーリーを追体験したい
アニメの世界観をもっと深く体験したい
アニメで描かれなかったストーリーを体験したい
アニメでは陽があたらなかったキャラを深堀りしたい
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アニメでは満たされなかったもの、またはアニメで満たされたことの再現(=再体験)を別の何かに期待します。ただし、解決手段はゲームだけでなく、小説、漫画で解決する人もいます。
ゲームは嗜好性が高い人を選ぶ商材です。ゲーム耐性がないと踏み込めないという視点を持つことが重要です。あくまでもゲームもアニメで満たされないことに対する解決手段の一つに過ぎないのです。
ゲームの場合、パズルゲームとシミュレーションゲームといった「ゲームジャンル」でもゲーム耐性や訴求可能なターゲット性別年齢が異なるので複雑です。これもアニメ視聴者=ゲームのメインターゲットに単純に設定できない理由のひとつです。

とはいえ、アニメからゲームに誘導するために「必要となる動機」については、少し見えてきましたね。
ゲームユーザー視点で期待すること
好きなゲームジャンルか
ゲームの作り上、ストレスなく続けられるか
ゲームそのものが面白いか
遊び続けるモチベーションが維持し続けるゲームか
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といった感じでゲーム本体に対する期待が中心になります。
ゲームにハマった結果、そのゲームの題材になっているアニメや漫画、小説を観たくなる、読みたくなるといった行動をするかもしれません。でもあくまでも主役はゲームなのです。
ここまで説明しても、こんな声が出てくるかもしれません。

「とある有力アニメ版権を使ったゲームを開発する」
「自社でオリジナルアニメそのゲーム化の両方を立ち上げる」
このような体制である以上、ゲームとアニメは強く紐づいているからアニメ視聴者がゲームをプレイするという構図は否定できないし、やっぱりアニメ視聴者をゲームのメインターゲットに設定するべきじゃないか?
これは
「ゲームはIPを楽しむ一つの手段に過ぎない」
という部分がどうしても理解できない状態と
「このプロジェクトにおける利益の大半をゲームに依存している」
という内部事情が混在している状態といえるのですが、次のように冷静になって考えて欲しいのです。
・ゲームを遊んで欲しいのは、アニメファンではなくゲームファンです。 |
・このゲームをきっかけに、アニメしか観ない人をゲームファンにさせる事は非常にハードルが高いです。なぜならゲームは嗜好性の高い商品であり、ゲームジャンルやゲームの内容によって嗜好性に幅ができるからです。 |
・強力なアニメなら、そのパワーを使ってゲームをインストールさせる事もできます。でもゲーム耐性が低い人はすぐに離脱してしまいます。 |
ここで重要なのは
「数が多くて、数が取れるからメインターゲットに設定するのか」
「獲得する価値があるからメインターゲットに設定するのか」
というターゲットに設定における考え方の話です。
答えはシンプルです。メインターゲットは後者ですね。
前者は獲得できてもゲーム耐性が低く辞めやすいので売上貢献しません。

よって前者をメインターゲットにして進めていくと失敗しやすくなります。その理由は次のパートでご説明しましょう。
ゲームは嗜好性の高い商品なのでアニメファン以外も遊ぶ
先に答えをお伝えしてしまいましょう!
アニメのゲーム化にあたって、ゲームユーザーにそのゲームの市場調査をしたとしましょう。

このゲームプレイしたい!
と答えた人は、必ずしもアニメ好きではありません。
※「ゲームユーザーに聞いているから、そんな結果がでるのでは?」
というツッコミがありそうですが、「ゲームを売りたいからゲームユーザーに聞いているわけで、アニメファンにアニメDVDを売りたいのとは違いますよね」
話がそれましたが、アニメは見ていないけど(見ないけど)このゲームは面白そうだから遊びます!と回答する人が多かったりします。
つまり、

アニメを知っていることはゲームをインストールするきっかけになるけど、ゲームをプレイし続ける決め手にならない、というわけです。
むしろアニメを見ない、知らなくてもゲームが好きなジャンルで、面白いならプレイし続けてくれます。それほどゲームって嗜好性が強い商品なのです。
よって、アニメを見ている、見ていないで市場調査を行い、それを戦略に落とし込むと大きな間違いを犯してしまうことがあります。

メインターゲットであるアニメ視聴者に対してプロモーションかけているのに、スマホゲームの数がとれない、取れても定着しない、売上があがらないのです。なぜなら、そこが本来、攻めるべきメインターゲットではないかもしれないからです。
むしろ、そのゲーム性に対して強く魅力を感じている「ゲーム媒体」にこそ
ゲーム事業を成功するためのユーザーがいるかもしれません。
ゲームとアニメのメディアミックスが失敗する典型的なケース
これまで話をしてきたことは、現場でやっている人の中には
「わかっていても認めたくない」もしくは「わかっていない」ケースが多く
その結果、ゲームとアニメのメディアミックスにおいて多くの失敗を目にしてきました。
うまくいかず失敗する原因はいろいろあるのですが、ここでは典型的な「考え方」についてあげてみましょう。
・アニメで面を稼いで認知とリーチを獲得すればゲームにもプラスになる →本当に面を稼ぐだけでゲーム事業に貢献できますか? |
・アニメのアナザーストーリーがゲームで楽しめるからゲームにもプラスになる →アナザーストーリーをゲームに期待している人、していない人、別の要素を期待している人など多様です。それを嗜好性の強いゲームという商材でアニメファンのニーズをどこまで汲み取れますか? |
・アニメとゲームの媒体特性や役割を理解せず設計実施している →1クールで終わるアニメ、終わりがないスマホゲーム、売り切り型ゆえに瞬間風速で終わる家庭用ゲームそれぞれプロダクトとしての時間軸が違います。 |
他にもいろいろな要素があるのですがこのように様々な要因を洗い出していくとゲームとアニメのメディアミックスを設計していく上で考えておくべき点が見えてきませんか?
昔、こんな事を言った人がいました。

ゲームからIPファンを増やして、アニメに誘導して、そこからファンが拡大して、結果、ゲームに戻ってくるのです!
つまりゲームを頑張って、ゲームからIPファンを増やすことが、結果的にはゲームにとってプラスになるんです!
考え方としては理にかなっているように聞こえますが、果たしてそうでしょうか?
ゲームとアニメの役割や関係を深く掘り下げていけばいくほど、これは「理想」に過ぎず、「現実」が見えてい考え方です。
とはいえ自社でオリジナルアニメとゲームを立ち上げるならば、まだ不可能ではないのですが、そのためには「どうするのか」という点が、この発言には伴っていません。

「IPファンを増やすためにゲーム運営をしっかりやろうよ!」では目的に対する打ち手としては圧倒的に足りないのです。
ゲーム事業に貢献できるアニメの使い方
ならば、ゲーム事業におけるアニメの使い方はどうすればいいのか?
知りたくなりますよね。これについてはいろいろ方法や考え方はあるので、今回は
「自社でオリジナルアニメ、そのゲーム化の両方を立ち上げる」
という条件に絞ってトロネコなりの「考え方の例」をあげてみましょう。
・プロジェクト全体にイノベーター理論を活用しましょう ※イノベーター理論はこちらを参考にしてください。 ↓ ・アニメの役割は「イノベーター」「アーリーアダプタ」の育成+定着に振り切るためゲームより先行で放映しましょう ↓ ・アニメが一番盛り上がり「アーリーアダプタ」と「アーリーマジョリティ」の間にある「キャズム」を超える瞬間にあわせてゲームアプリの配信日を持ってきましょう ↓ ・アニメがスマホゲームの初速ブーストとしての役割を担い、アプリ配信直後からすぐに「キャズム」を超え「アーリーマジョリティ」に踏み込むことで事業の最大化を狙いましょう |
こう考えていくと、アニメとゲームの役割が明確になりますし、アニメとゲームの投下時期をあわせて設計する必要があります。
よって、制作開発都合でアニメとゲームの配信時期が大きく離れることは、イノベーター理論からすると持っているポテンシャルを最大限発揮できないこともわかります。
他にも「考え方」はありますし、これが必ずしも正解とはいえません。ここで重要なのはこのように「アニメとゲームの関係とそれぞれの役割を明確にすること」です。

メディアミックスにおいてアニメとゲームの役割は明確になっていますか?
そして、冒頭からお話した通り、アニメファンは必ずしもゲームのメインターゲットにはなりません。ゲーム耐性と、それぞれが期待している要素が異なるからです。
よって、それらを理解できると
・アニメとゲームをどう繋いでいくのか ・アニメとゲームの直接連携以外で両者を繋ぐ方法はないのか ・ゲーム耐性の低いアニメファンをどう対策するのか |
いろいろ考えることがでてきませんか?このように「考えること」を洗い出せると事前に対策が取れますし、結果、プロジェクトの成功確率があがります。
まとめ
「アニメファンが必ずしもゲームのターゲットにはならない理由」というテーマでお話してみましたが結構、ヘビーなテーマなので、この記事だけでまとめるのは難しいかったです・・・・
この記事に本当の正解はなかったかもしれませんが読んで頂いた方にとって何かしら「気づき」があればトロネコとしても嬉しいです。
というわけで、今日はここまで!