【かんたん解説】スマホゲームにおけるTVCM施策設計・試算・測定のやりかた(5つのプロセス)

マーケティング

こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。

今回はスマホゲームにおけるTVCMの設計・試算・検証方法について解説します。内容的に複雑になりがちなので、できるだけわかりやすいように全体像をまとめてみました。よって、あえて細かい部分までは今回踏み込んでいませんのでご了承ください。

とはいえ、トロネコとして皆さんにこれだけは伝えたい事はなんとか盛り込んでみました。長文になってしまいましたが最後まで是非読んで頂けると幸いです。

TVCMは効果がないというのは大きな間違い

「もう、TVCMは効果がない、もうダメだ」
「だから今後はデジタル広告に振り切るべきだ」

といったゲームプロデューサーがいました(実話です)しかし、

「TVCMほど効率的に広く認知を稼げる媒体はまだ存在しません」
「TVCMほど印象的に心に届く媒体はまだ世の中に存在しません」

なぜならすべてのターゲットユーザーがネットを見ているわけではないので、すべてのターゲットユーザーをオンライン広告やオンライン施策で情報訴求することは物理的に不可能だからです。

これはユーザーの行動が多様化しつつある現在も、そしてこれからも変わりません。TVCMはこれからも間違いなく必要な広告手段です(将来的に絶対ということはないですが、しばらくは変わらないです)

ただしTVCM制作については押さえておくべき重要なことがあります。

・TVCMを単体の広告メディアとして使用すると効果を最大限発揮できません。
・TVCMとその他の施策を総合的に設計するとTVCMの価値を出すことができます。

この特性は、これまでもずっとこんな感じ変わらなかったのですがユーザーの接触媒体が多様化によって最近、ちょっと変化が出てきました。

これまでは「お金のチカラ」による「TVCMの投下量」によって、とりあえずTVCMを流しておけば「インストール数」を取れる時代がありました。つまり「数の暴力」で誤魔化せていた時代もあったのです。

しかしここ数年のスマホゲームのTVCM投下においては、本来TVCMとしてあるべき設計をしなければ最近は数字が出にくくなってきたというのは事実です。

つまり

「もう、TVCMは効果がない、もうダメだ」
「だから今後はデジタル広告に振り切るべきだ」

という認識はこれまでTVCMをちゃんと作ってこなかった事実を自ら告白している発言なのです。実際のところTVCMを単体のインストールユーザー獲得広告手段として考えていたゲーム会社は多く、これは非ゲーム業界からすると、ちょっと信じられないことかもしれません。

TVCM制作における5つの制作プロセス

今回の記事では細かい部分までお話できませんので、全体の流れを把握していただくために5つのプロセスで説明していきます。TVCM制作にあたってはこの5つのプロセスを通るようにすると取り返しがつかないほどの大きなミスは防ぐことができます。

記事が冗長になって読むのが辛くなるため簡潔にまとめますので、各項目についてもっと知りたい!という人はトロネコまでご連絡ください。

①マーケティング戦略をつくる

TVCMという話の前に、そのゲームを配信する前、配信した後、常ににアップデートし続けている「全体のマーケティング戦略」があるはずです。

よってまずは、きちんとマーケティング戦略が作られているのが大前提です。
戦略がない状態でTVCM制作には着手できません。なぜなら目的を達成できない間違ったTVCMを作ってしまう可能性が高いからです。

マーケティング戦略の作り方は「フレームワーク」を以前に説明していますので、それに沿って作成してください。

※フレームワークの参考記事

②今回のプロモーションフェーズにおける戦略をつくる

①のマーケティング戦略はそのゲームにおける「半年」「1年単位」での全体戦略を指します。ただし、あくまでもそれは「中長期的な戦略」であり、それを達成するための1か月、3か月単位での「短期的なマーケティング戦略」も必要です。

たとえば仮にゴールデンウイークでTVCMを投下しようと考えているなら、「1年単位の全体マーケティング」に対する4月から5月にかけての「短期フェーズの役割」が作られているはずで、4月から5月にかけて実施した施策効果が6月から夏にかけてのそのゲームの売上を形成することになります。

つまりゴールデンウィークでTVCMを実施するなら4月から6月までの3か月における 「短期的なマーケティング戦略」が必要です。(TVCMを作らなくてもフェーズごとの短期的なマーケ戦略は必要です)

そして、「全体のマーケティング戦略」 はいくつもの 「短期的なマーケティング戦略」という「点」が連続して「線」になって最終的に達成されます。

「点」ではなく「線」で考えるゲームマーケティング戦略・プロモーション設計

よって、今回のゴールデンウイークにおける4月から6月までの3か月における 「短期的なマーケティング戦略」も作成してください。

ここができた状態でTVCM制作の準備がようやく整います。

③TVCMを軸にした戦略を達成するための各施策を設計する

TVCMとは何か?それは

「テレビの画面を通して動画と音声によって商品の情報接触を行う手段」

といえます。
つまりTVCMを1回見たら、それは1回の情報接触(フリークエンシー)なのです。(今回はGRPや番組枠の買い方などの話は割愛しますね)

つまり

TVCM:テレビと通したフリークエンシー
デジタル広告:Webにおける広告バナーや動画を通したフリークエンシー
SNS運用:SNS経由によるクチコミ拡散情報を通したフリークエンシー
Youtuber:ユーチューバーの動画経由でのフリークエンシー
ゲーム内お知らせ:ゲームをプレイする中でのフリークエンシー

など、となります。(他にもフリークエンシーを稼げる方法はたくさんあります)

それぞれ、「新規ユーザー」「離脱ユーザー」「既存ユーザー」のどれに効くのかも異なりますし、その媒体特性によって「情報量」「共感度」「コスト」「時間軸」「ユーザー感情」などの効果も様々です。

つまり

「TVCMを投下するために、それ以外の施策も同時実施する」
のではなく
「TVCMを含めたあらゆるフリークエンシーを稼ぐ接触媒体を総合的に設計する」
必要があるのです。

実際のところ人は4、5回ほど情報接触するとその商品の存在を認識して関心を持ってアクションするかの分かれ目に立ちます。

④各施策がどのように連携してユーザーへのフリークエンシーを稼ぐか時系列で設計する

常識的な話なのですが、あまり理解していない人が多いので一度整理しておきましょう。

・TVCMを見た→ゲームをインストールした
・デジタル広告を見た→ゲームをインストールした

という媒体ごとの即時的効果でスマホゲームの場合は「計測」して「効果検証」しがちです。しかし、実際のユーザー行動や感情を考えると、このようなシンプルなパターンはむしろレアかもしれません。

TVCMを見た→行動を起こさない→デジタル広告を見た→行動を起こさない→SNSでクチコミを見た→ちょっと気になった→ストアに行った→ディスクリプションを見てインストールを決めた

というようにフリークエンシーを重ねることでインストールに近づいていきます。そして先ほど申し上げた通り、 人間は4、5回ほど情報接触するとその商品の存在を認識して関心を持ってアクションするかの分かれ目に立てるのです。

つまり、TVCMを始めとした各施策を総合的に考える必要があるのです。
ユーザーは各施策を時間軸で接触したらどのような感情になるのか、まで踏み込んだ設計が必要です。

もちろん

・TVCMを見た→ゲームをインストールした
・デジタル広告を見た→ゲームをインストールした

たったこれだけでインストールしてくれるユーザーもいますが、「これは超ラッキー!」くらいで考えておくべきです。しかし、「この超ラッキー!」が施策のすべてになってしまうと、これは各媒体を単体でしか見ていない状態であり、これが冒頭で申し上げた

「もう、TVCMは効果がない、もうダメだ」
「だから今後はデジタル広告に振り切るべきだ」

という状態の原因になってしまいます。

①と②でマーケティング戦略がちゃんと設計されていれば、今回のゴールデンウィークの全体施策における「目的」「目標」「ターゲットユーザー」も明確になっているはずです。

それを達成するための各施策の「役割」「目標数」を洗い出していけば全体像が見えてきます。

⑤目標を達成するために各施策に必要なコスト、クリエイティブ(訴求軸)、施策案を決める

以前に「事業計画の作り方」の話もしましたので、 今回のゴールデンウィーク施策におけいて獲得が必要なユーザー数、DAU、売上などの「目標」も作成済だと思います。

それを各施策ごとでどのように獲得していくか割り当てながら、各施策における過去実績からのCPIや想定CPIを元に算出することができます。

TVCMで10万インストールを期待するなら、10万×CPI1000円(この数字は適当です)=1億円(TVCMの出稿料+製作費の上限)といった必要コストが見えてきます。※この数字はダミーです。

※厳密には獲得媒体ごとにCPI、見込みLTV、許容ROIなどが異なるので、それらを全部洗い出して今回のゴールデンウイークの施策を設計しながら、必要なコスト、獲得数、それを達成するための施策を組んでいきます。

一見、凄く難しそうに思えるかもしれません。
(もしかしたら多くの人が難しく感じるかもしれません)

でも、もし難しそうに感じるならば、それは「マーケティング戦略」「事業計画作成」などの事前準備ができていない、もしくはその「精度」にあながた不安を感じている証拠です。あらゆる施策はそれまでの「積み上げ」の元で成立します。手抜きをすると苦労するのは自分であり、結果も出せません。

「これまでの積み上げ」ができている人なら今回の設計はあっという間に作れてしまうはずです。(実際に作れてしまいます)

TVCMの効果検証方法

「事業計画の作成」の記事で説明済ですが、事業計画が適切に作成できていれば目標設計は簡単です。

なぜならこちらで書いたように事業計画における目標数値は「新規ユーザー」「復帰ユーザー」が「広告経由」「オーガニック経由」で分解できているからです。

デジタル広告経由のユーザー獲得数とその他SNSやWeb施策の獲得数がわかれば、残った数字がTVCM経由での流入数になります。

つまり、TVCM経由での流入数はシステマティックに計測できないので、その他の計測できる数字を除外してTVCM投下期間における「推測」から算出する必要があります。

マーケティング戦略、事業計画、コストから「TVCM経由での獲得目標」は算出されているので、それに対しての達成度でTVCM効果検証が可能です。

ただし、これはあくまでも「TVCMによるインストール数」に過ぎません。
あとはこのインストールしたユーザーのその後の継続率、課金状況を見ながら、そのユーザーは獲得するだけの価値があったのか?想定LTVとCPIによるROIベースで評価をします。

どんなにインストール数を稼げても、結局のところ売上貢献できなければ無意味です。しかし、インストール数は目標未達でも、売上は目標達成する場合もあります。それはTVCMを含む全体施策設計の効果が獲得ユーザーの「質」「その後の状態」を押し上げるからです。

TVCM制作における注意点(あるある失敗例)

ところで様々なゲームのTVCMを見かけますが、ここで注意しておきたい点をご紹介しましょう。どのように感じ、どのように判断するかはお任せします。

・訴求軸をシンプルにして情報盛り込みすぎないようにする

作り手の想いが強すぎて、いろいろな情報を盛り込みすぎたTVCMをよく見かけます。でも、15秒のTVCMでは物理的にワンメッセージしか伝わりません。

マーケティング戦略にそって、TVCMの役割を明確にしましょう。
伝えたい情報がたくさんあるということは、マーケティング戦略が絞り切れていない証拠でもあります。どうしても伝えたい情報があるなら、CMの最後でキャンペーンWebページに誘導するなど、総合的な施策設計の中で解消しましょう。

・必ず戦略に添った役割を達成するクリエイティブに徹する

TVCM制作には様々な方面からツッコミが入るものです。特に重要なゲームタイトルの場合はマーケティングとは関係ないところから「強い発言力を持った人による個人的意見」が入りやすいのです。

でも、多くのケースで「よくわからない自己満足のTVCM」が完成してしまい失敗します。(失敗しているのに成功したと思い込んでしまうケースもあり危険です)マーケティング戦略をちゃんと作れても、作りたいTVCMにならないようにマーケターは最後の砦として体を張ってください。

・タレント起用のメリットデメリットを理解する

有名タレント、有名アーティストの楽曲の起用など、TVCMの訴求力をあげるために様々なモチーフを活用しがちです。

でも、みなさんの目的は「ゲーム事業の成功」ですよね?

そのためにターゲットユーザーを獲得して、ゲームを遊んでもらうためのTVCMである事を忘れないようにしましょう。タレント起用は多くの視聴者の目に留まりますが、そこから得たインストールユーザーは必ずしもマーケティング戦略における目的達成に添うのかは慎重になる必要があります。

・CIはTVCMの効果を激減させるリスクがあることを理解する

CIとはコーポレート・アイデンティティ(corporate identity)の頭文字を取ったコトバでありTVCMの始まり、終わりに「ロゴ」「メッセージ」などで表示されます。

企業ブランドを訴求する点では必要な場合もありますが、TVCM終わりのCIはTVCMの効果を下げてしまうのでおすすめできません。でも会社の方針で入れなければならないというケースも多いと思います。

でも、15秒CMの終わりのCIは、そのCIのインパクト度合にもよりますが、結局そのCMの印象が全部CIに持ってかれてしまい、ゲームの商品情報が記憶として残らない恐れがあるのです。

会社としてあらゆるTVCMにCIを入れる方針にするならば、TVCM本来の目的を阻害しないCIを作成する必要がありますが、個別商品とCIの制作部門は異なる場合もあるので、ここは大きな課題です。

・あくまでもTVCMは手段でありゲーム内の受け皿が重要である

TVCMやその他総合的な施策設計はあくまでもフリークエンシーを稼いでゲームの認知を高めインストールしてもらうための手段に過ぎません。

重要なのはインストールした後、ユーザーが継続プレイして、課金してくれるかにかかっています。どんなにユーザーを獲得しても「底が破けたバケツ」に水を入れても溜まらないように「底が避けたゲーム」も同様なのです。

ここの話はかなり重要なので何度も読み返してください。本当に重要です。

よって、今回のゴールデンウイークの施策例は、

「ゴールデンウイークだし、事業計画達成しなければならないから施策をしなければならない」ではなく
「ゴールデンウイークに万全の状態を作れるよう半年かけて仕込んできたらここで大きく踏み込もう!」という考えが必要です

そして、 「底が破けたバケツ」の底の穴をふさぐのもマーケターの仕事です。「それはゲーム開発の仕事だから」とお任せしている状態では結果が出せないことを真剣に考えるようにしましょう。

まとめ

今回の記事では全部は話し切れていませんが、これら内容を踏まえてTVCM設計、検証をすると大きな間違いはならないと思います。ただし、大前提として

「マーケティング戦略がちゃんと作られていること」
「マーケターが主導になって戦略に基づいたTVCMの役割を設計すること」

これら2つはぶらさず遂行する必要があります。

TVCMは「話題をつくること」でも、「インストール数を稼ぐこと」でもありません。売上に繋がるユーザーを獲得することです。

数を稼ぐだけに注意が向いてしまうと、ユーザーが積みあがっていかず、永遠に宣伝費をかけてDAUと売上を作るマーケティングをしなければなりません。(実際にTVCMを打たなければ存続できない自転車操業的なゲームもあるはずです)

でも、これはまったく無意味です。なぜならそのゲームのターゲットユーザーの残存市場を取り切った時点で必ず破綻するからです。

そして破綻していることを自覚しているのに、他に打ち手がないから、TVCMを投下するようなことがないようにしましょう。

というわけで今回はここまで!