こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
企業で働いているマーケーターなら毎年恒例の「事業計画作成」の季節がやってきました!
売り切り型の家庭用パッケージビジネスと比べると、運用型のスマホゲーム事業は年間の運用計画、ユーザー獲得施策を含めて結構な作業が発生します。
思い返せばスマホゲームに比べると家庭用ゲームの事業計画はかなり楽でしたね・・・なぜなら、スマホゲームの場合はすべての数字に対して根拠を示せる状態まで作りこむ必要があるからです。
ところでスマホゲームの事業計画策定において次の2つの問題があります。
「誰もスマホゲームの事業計画の作り方を誰も適切に説明できない状態」
「結果、担当によって作り方がバラバラで、その状態を組織として放置している状態」
信じられないかもしれませんが、これが現実です・・・よって何が起こるのかというと
例えば配信前、運営中のタイトルがそれぞれ5タイトル、合計10タイトルあるとして、10人の担当者がいるとしましょう。そうすると10人が異なる粒度・レベル感で事業計画向けの年間計画を出してくることになります。 |
最終的にとりまとめるシートは全体で統一されていても、そのシートに記入する数字の根拠や達成するための戦略、施策の粒度やレベル感がバラバラという意味です
よって担当者のスキルに大きく依存することになりますので、ちゃんと作れているタイトルと、まったく作れていないタイトルが混在した結果、会社の事業計画の数字が作られます。
その結果、計画と実態に大きな乖離が生まれることになります。10タイトルのうち5タイトルが事業計画が適切に作れていても、残り5タイトルのギャップが大きすぎて会社全体の計事業画が台無しになってしまうというイメージです。
小規模の会社で、前年実績から予測できる運用タイトルしかやっていないなら
ズレは少ないのですが、大規模の会社で新規タイトルも仕込んでいくような「攻め」の会社の場合は、ここで大きなミスをしてしまいます。
そこで、今回は連載企画として全3回に渡って、これまで誰も語らなかった「ゲームビジネスにおける事業計画の作り方」について考えられるケースをあげながら説明したいと思います。
トロネコも20年間ゲーム業界で生きていますが、ちゃんとした形で誰も「事業計画の作り方」を説明していなかったので、今回、その作り方の断片でもいいので言語化して皆さんにお伝えいたします。
事業計画策定の事前準備
「事業計画をつくろう!」
といっても、いきなり数字を作り始めるのはNGです。
まずは、担当タイトルの今年度のマーケティング戦略を作りましょう。
なぜなら、タイトルごとにマーケティング戦略がないと立てた事業計画の数字を達成する策がないですし、策がなければ、その事業計画が達成できる根拠がないので事業計画の数字に対する正確性、確実性に疑問が出てくるからです。
ちゃんと考え抜かれたマーケティング戦略が作れていれば、どんなに横やりを入れられても説明できますし(事業計画は作っている途中も、作った後も、横やりの嵐です)マーケティング戦略が作れていれば、立てた計画を達成する手段が明確になっているため、チームとしてやるべきことも明確にすることができます。
・マーケティング戦略策定にはフレームワークを活用しよう
マーケティング戦略はこちらでも解説していますが便利なフレームワークがありますので、これに添って作成しましょう。
目的→目標→課題→戦略→戦術→具体的なアクションプラン
といった流れで、各パートの相互関係を維持しながらつくれると、精度の高いマーケティング戦略がつくれます。
こちらの記事でも書いていますが改めて簡単にそのプロセスを説明しましょう。
・現状を把握する
新規、既存タイトルに関係なくまず現状把握を徹底的にしましょう。
市場環境
・市場トレンド、競合タイトルの状態など
担当ゲームタイトルの状態
・DAU、MAU、継続率の推移
・ユーザーの定性評、現状顕在化している課題
・今後のアップデート計画
・キャラクタータイトルなら今後の盛り上がり見込み等
・現状のユーザー獲得状態(イノベーター理論のどこに位置するのか)
前年度の獲得ユーザーの状態
・課金率、課金額
・継続率
・獲得ユーザーを広告経由、定常施策経由、その他経由で分解
他にもいろいろな事項はありますが、最低限、この程度は事前情報を収集しておく必要があります。もし「結構な情報量が必要だなぁ」と思ったなら、それは「詰めが甘い状態」だと思ってください。これが最低限必要な現状把握であり、必要に応じて市場調査、ユーザーインタビューも必要です。
とはいえ「いざ事業計画をつくろう!」という段階で市場調査やユーザーインタビューを準備しても間に合わないので、日々の業務の中で、常に意識しながら準備する必要があります。
・目的を明確にする
新規タイトル、既存タイトル、その規模などによって「目的」はバラバラです。マーケティング戦略策定にあたって、まずそのタイトルの「目的」を明確にする必要があります。
・RPGというジャンルでNo1になりたいのか |
・20代女性に圧倒的に支持されるゲームになりたいのか |
・10年後も愛されるIPになりたいのか |
・ゲームをきっかけにIP展開してゲーム以外でも成功したいのか |
これらはダミーですが、ゲームや企業によって様々な「目的」があります。
目的とは、「このゲームが辿り着きたい理想の場所」ですから、どこに進みたいのかを明確にすることで、この先の設計が大きく変動します。
・目標を設計する
「目的」を「数値化」したものが「目標」になります。RPGというジャンルでNo1になりたいなら、競合タイトルの状況などから「目標」を算出することができますよね。
「目標」は年間売上、利益を月別、クオーター別で設定して、それを達成するためのKPIとしてDAU、インストール数などがあるなら、それも「目標」の一部になります。
そして、これら「目標」は前のパートの「現状把握」で把握した定常施策で獲得できるユーザー数と、「それ以外でなんとかして獲得しなければならないユーザー」との差分を算出します。
定常施策で今年度も獲得できるユーザーは堅く見込みやすい数字であり、実際には「それ以外でなんとかして獲得しなければならないユーザー」が目的達成、目標達成における実務上の「目標」になります。
・課題を明らかにする
「目標」を達成するための「課題」として考えられるものは何か明らかにします。前のパート「現状把握」が徹底的にできていれば、皆さんの中で「課題」はなんとなくわかっているかもしれません。
「課題」は「目標」の裏返しにならないようにする必要があります。
どういうことかというと例えばこんな感じです。
「目標は新規ユーザー10万人に設定しました!」
「でも新規ユーザー10万人が獲得できないことが課題です!」
とならないようにしましょう。
新規ユーザー10万人が獲得できないことが課題ではなく、獲得できない何かしらの問題があり、その問題を引き起こしている原因が「課題の一部」なのです。
競合タイトルとも問題
自社タイトルの問題
お金の問題
市場環境の問題
・
・
「課題」には様々なものがあり、それは、タイトルごとにバラバラです。よって、タイトルAとタイトルBで、使いまわせる「課題」はないですし、マーケティング戦略もありません。
マーケティング戦略のコピペで、タイトル名を入れ替えただけの資料もたまにみかけますが、まったくイケていないので絶対にやめましょう
・戦略を決めよう
「戦略」は「課題」をクリアし、「目標」を達成し、結果「目的」も達成します。「戦略」は「目的」まで全部繋がっています。
戦略とは施策案ではなく、「課題をクリアにするためにとるべき方針」であり
どこを攻めれば「課題をクリアできるか攻略法」といった感じです。
もし、あなたが三国志、戦国時代の「軍師」なら、限られた自軍の兵士を活用して敵を倒すためにどのような戦略をとりますか?
「ただひたすら戦おう!」は「戦略」ではなく「気合」に過ぎません。
「気合」で戦いに勝てないのは誰しも想像できると思います。
でも、多くの「戦略」において
「認知度高めよう」 |
「話題をつくろう」 |
「20代男性を獲得しよう」 |
「ターゲットを決めてプロモーションしよう」 |
といったものを「戦略」としているケースが多いのですが、これは「戦略」ではありません。
「それをやったら課題がクリアになるのか?」
「認知度を高める事が戦略ではなく、高めるためにとるべき方針が戦略なのです」
一般的にマーケティングができていると思われている会社でもちゃんと戦略まで落とし込んでできている会社はまだまだ少数です。なぜなら、誰もちゃんと「マーケティング戦略の作り方」を伝えてこなかったのが原因だからです。
・戦術
「戦略」が決まれば「戦術」を決めるのは簡単です。
なぜなら「戦略」に添って、それを達成する「戦い」を地上戦、空中戦、局地戦、ゲリラ戦を組み合わせて設計すればいいからです。
多くのケースで「戦術」「施策」先行で考えがちですが、これは絶対にやってはいけません。なぜなら、「戦術」「施策」先行で考えられたプランは
「施策が成功したのか、失敗したのかわかる術がない」 |
「成功したとして、それが目的達成に繋がっているかわからない」 |
「失敗しても、それを次に活かすことができない」 |
「成功失敗体験を活かせないので組織としての成長が見込めない」 |
というわけです。
もう少し分かりやすい例をあげてみましょう。
「目的は、夕食でサンマの塩焼きを食べて季節を感じて幸せな気分になる」
だったのに
「施策先行だと、山に入ってハンティングでジビエ肉を獲得してくるかもしれません」
サンマを食べたかったのに、ジビエ肉ではないという話です。
目的である「サンマを食べる」を達成するためには、施策として「山ではなく海に行くべきです」
これは極端な例ですが、こちらにも書いてあるようにHOW思考に陥ってしまうと、目的を見失ってしまい、ただ本能に任せて毎日の業務をこなしているだけになってしまいます。これはマーケティングとはいえません。
事業計画策定の考え方とテクニック
ここまでの話が「一般的な事業計画の作成に必要な事前準備」です。
でも、その先まで考えられると「一歩先を行く、攻めの事業計画」をつくれますし、「あらゆるツッコミに対してもカウンターを返せる事業計画」がつくれます。
最後に一歩踏み込んだ「考え方」と「テクニック」について最後のお話しましょう。
・毎月結果をださなくてもいい
毎月結果を出し続けなければならないと思いがちですが、ゲーム本編に課題があればユーザーを獲得しても大部分が無駄になります。
よって、「現状把握」によって「課題」を明確にした結果、短期的な改善が困難と判断するならば、半年後、1年後に改善する事業計画もアリなのです。むしろ半年後、1年後に改善できるプランの方がゲーム事業としては健全であり、建設的です。
・ユーザー獲得、DAU維持が必ずしも正解ではない
こちらの記事でも書きましたが、必ずしも新規ユーザー獲得によるDAU維持が正解ではありません。アプリのフェーズや状態によっては、攻めではなく守りを固め、確実に利益を出す振り切り方もありです。宣伝費を使って一時的にDAUは改善したけど、獲得単価や定着率の問題から、結果的に利益率を下げてしまう未来もある。
・ロジカルドリブンも重要だけど、ハートドリブンも必要
事業計画は基本的に数字の積み上げであり、その数字には根拠が必要です。
大前提としてこれは重要なので、徹底的にロジカルドリブンであるべきです。
ただし、ロジカルで積み上げた数字と、会社として目指したい数字にはギャップが生まれます。そのギャップが埋めきれないほどのものならば、会社が考える「目的」や「目標」設定に無理があるので、遠慮なく現実に目を向けるように指摘しましょう。
ただし、そのギャップが「確かに大きなギャップはあるけど、絶対不可能とは言えないレベル」の場合、ロジカルドリブンだけでなく、ハートドリブン思考で人間の感情を動かす領域に踏み込む「マーケティング戦略」と「それに基づいた施策」が必要になります。
非常にハードルが高い話で、イメージしにくいかもしれませんが
要するに「ロジカルは厳守しつつ、それに囚われすぎない柔軟な思考力があると、ギャップを埋める戦略や施策が考えられるよ」という話です。
実は「仕事ができるマーケター」と「マーケティングスペシャリスト」の境界線がここに存在します。
まとめ
というわけで第1回目は、事業計画策定に向けた事前準備と考え方について説明しました。
次回はいよいよ「プロモーションプランの策定と実際の獲得ユーザーの算出、積み上げ方法」についてお話していきます。
というわけで、今日はここまで!