こんにちは
マーケティングスペシャリストのトロネコです。
今回は2020年から世界中で流行している日本のCity POP(シティポップ:音楽のジャンル)についてマーケター視点で分析します。
(厳密にはCity Popは2010年初頭にも流行ったけど2020年のヒット要因はちょっと理由が違うと考えています)
なぜ、City Popがこのタイミングでブレイクしたのか?
トロネコも気になっていたのですが、その真相や原因の核心に踏み込んでいる記事はほぼ存在しないんですよね。
要するに
「我々はなぜCity Popがヒットしたのか、明確な答えを持っていない」
というわけです。
調査をしても、トレンドや流行に対する明確な「答え」を見つけるのは難しいものですが
トロネコはマーケターなので、今回、仮説やユーザーインサイトを含めて「City Popがヒットした理由」について考察していきます。
そして、その考察のプロセスを持って、ゲーム事業や商品開発をされている方のヒントになれば幸いです。
どうやってユーザーインサイトを深掘りして、新しいヒットを生み出すのか?
その、「きっかけ」みたいなものが「気付き」として伝われば幸いです。
よってCity Popって何?
どんな曲が流行っているの?
という基本的な話については、あまり深く触れません。知りたい方はネットを検索してみてください。
City Pop(シティポップ)とは
City Popとは1970年代から1980年代に日本でリリースされたニューミュージックの中でも都会的に洗練されて、かつ洋楽志向のメロディを持ったポピュラーミュージックのこと。出典:wikipedia
実際に日本のCity Popが2020年、海外でヒットしました。
実際に人気になったのは、松原みき「真夜中のドア(1979年)」、竹内まりや「Plastic love(1984年)」といった1970年代後半から1980年代の曲なのですが、正直、トロネコ世代でも当時を知らない曲でした。
世界的な再ブレイクによってレコード会社はMVを製作してyoutubeで公開しています。
公開しているyoutubeチャンネルは日本のレコード会社のものですが、コメント欄を見ていただければわかるとおり、実際にこのMVを試聴しているのは、ほとんど海外になります。
ちなみにトロネコがこれら曲を知ったのは知り合いのDJさんが曲をかけて「これいいね!」と感じたことがきっかけでした。
ちなみに、そのDJさんはネットリテラシーが高い30代です。
日本のCity Popが海外でブレイクした5つの理由(仮説と考察)
なぜ、今から40年前の日本の曲が海外で流行ったのか?
ここからは、その原因をマーケター視点で考察してみたいと思います。
明確な「答え」は無いのですが、マーケター視点で考察を重ねていくことで5つの理由らしきものが見えてきたので、それをご紹介します。
①存在の認知
まず、あらゆる商品やサービスにおいて言えるのですが、
(トロネコがやっているゲームという商品もそうですが)
基本的に存在は世の中に知られていません。
ポケモンやマリオ、ドラクエまでになれば国民の多くは知っているかもしれませんが、それでも、どんなに調査しても100%の認知にはなりません。
CMを投下し、ゲーム業界で大ヒットしたタイトルでも、限定した領域における知名度にとどまります。
大ヒットした商品やサービスでも認知度は限定的なのです。
つまりどういうことかというと
世の中の多くの音楽もゲームも全く知られていないのです。
だから、TVCMを5,000GRPも投下したのに、全然、ゲームアプリがインストールされない!というのは、当たり前のことです。
なぜなら、もし無限にお金があったとしても、TVCMでターゲットユーザーに情報を伝えるには限界があるからです。
現在進行形の商品でさえ知名度が低いのに、40年前の音楽となると、さらに知名度は低くなります。
つまり、どんなに素敵な曲でも、良いゲームでも、サービスでも
その存在が知られなければブレイクするチャンスすらないというわけですね。
2020年、YouTubeやspotifyなどで
City Popの名曲の存在が世の中に知られる「チャンス」が得られたというテクノロジーの発達も背景にありました。
知られた結果、海外の歌い手さんがカバーすることで、さらに認知が広がっていきました。
インドネシアの歌い手さんrainych(レイニッチ)さんが歌った動画は600万回再生を超えています。
オンライン上でヒットする時のケースとして
実際のところspotifyが先なのか
カバーした海外の歌い手さんが先なのか
同時発生的に、瞬く間に広がるネットの特性上
どっちが先なのか?というのはあまり重要ではありません。
もし企業が意思を持って仕掛けるなら「同時多発的」「情報の拡散プロセス」をある程度設計して、マーケティングやプロモーションを投下して、
ネットという大海に波紋を起こすに留め、あとは流れに身を任せる方がROI(Return On Investment)は高いと思います。
ちなみに、City Popにおいては、松原みき「真夜中のドア(1979年)」、竹内まりや「Plastic love(1984年)」といった曲は海外の人に存在が知られて
ブームになっているわけですが、
前出のDJさん曰く
City Popでもっと良い曲はたくさんあるけど、まだ海外の人は発掘できてない
とのこと。
これは事実で、実際にどんなにyoutubeで検索しても出てこない名作City Popもたくさんあるからです。ここは宝の山が眠っていると言えるでしょう。
つまり、我々も海外の人も、まだ知らないお宝が、この世界には埋もれており、存在を知られる時をじっと待っている状態と言えるかもしれません。
話はそれますが、もしこの記事をレコード会社の人が読んでいるならば、海外でまだ発掘できていない、日本ですら一般知名度がない、埋もれた過去の楽曲をリバイバルで仕掛けることで、新たなビジネスチャンスはあります。
むしろ、新しいアーティスト、楽曲を出すことによるリスクよりも、圧倒的にROI(Return on investment)の高いビジネスができる可能性もあります。
ちょっと話が逸れましたね
②City Popは海外には存在しないけど馴染みあるサウンド
City Popとは1970年代から1980年代に日本でリリースされたニューミュージックの中でも都会的に洗練されて、かつ洋楽志向のメロディを持ったポピュラーミュージックのこと。出典:wikipedia
City Popの生まれそのものが、「洋楽の影響を受けた日本の音楽」なので
そもそも海外のリスナーの耳にすんなり入りやすいメロディを持っていた可能性は否定できません。
つまり海外から洋楽が日本に輸出され
日本で加工、再生成され
それが日本から海外に輸出された
という流れが想像できます。
これまで、このプロセスを意図して計画的にレコード会社がやろうとしてきたのか?
やってきたけどできなかったのか?それとも、やってこなかったのか?
そのあたりは専門家にお任せするとして
実際に意図してやった過去があったとしても、あまりうまくいかなかったのは
テクノロジーの普及が足りていなかったのか?
ネット上のユーザーインサイトとの不一致だったのか?
この原因を明らかにすることで、次なる打ち手は見えてきます。
③70年代80年代の日本カルチャーに対するノスタルジーと幻想的な憧れ
Youtubeで再生されている日本のCity Popのコメントのほとんどは海外のユーザーなのですが、それを読んでいくと
海外のユーザーの中に
70年代80年代の日本カルチャーに対する憧れというか、ブランド的なもの
時にノスタルジーに浸るような感情
が背景に存在しそうなことが、見え隠れします。
そして、
City Popの曲とセットでビジュアル表現されるのが
ネオンに輝く都市や、日本製品に対するかつての憧れや、ちょっと古いアニメや
現在の日本ではあり得ないような、フル生演奏による歌番組など
そこに何かしらの「日本に対する憧れ」みたいなインサイトが存在することが見えてきます。
我々からすると、70年代80年代の日本は過去の日本であり
「懐かしい」と思う人はいるかもしれませんが、そこに憧れやブランド価値を感じる人は少ないかもしれません。
そして、City Popの曲とセットでビジュアル表現されている
ネオンに輝く都市は、実際に当時の日本には存在しなかった「幻想」と感じるかもしれません。
でも一方で、我々が海外の70年代80年代の映画や音楽が好きで、そこに特定のイメージを持つようにそれと同じようなことが、City Popの周辺では起こっているのではないか?という仮説が作れそうです。
つまり、価値観のギャップが日本と海外のユーザーには存在するというわけです。
かつて海外から見れば日本といえば「サムライ」「武士」というイメージがありましたが
そこに「アニメ」「電化製品」「富士山」「ラーメン」といった様々なイメージが追加されていく中で
その一つとして「City Pop」といい新しいジャンルが追加されようなイメージでしょうか。
最近はゲーム事業も開発費が巨大化しており日本だけで完結するようなゲームは、収支が成立しないので、ワールドワイドで展開することを前提とした開発を行うわけですが
その際に発売地域に対応した「カルチャライズ」として、「ゲーム内コンテンツ」「一次翻訳、二次翻訳、三次翻訳」みたいなものを実施しますが、実は表面上のカルチャライズでは、ワールドワイドでは成功は難しくなっています。
なぜならコンテンツの本質に対する「価値観の違い」が存在するからです。今回の「City Pop」の現象からも、その片鱗がわかるような気がします。
④「古いものはダサイ」という固定観念がない
最近、日本でも若い世代が昭和の歌謡曲を好きになるような現象がみられます。その多くはyoutubeで過去の映像を「触れて、知って、好きになる」というパターンが多いわけですが
一方で、昭和の歌謡曲の時代を生きてきた人からすると、過去の楽曲に安知して
「懐かしい」「古い」「ダサイ」と感じる人もいるわけです。
しかし、昭和の歌謡曲そのものは、何も変わらない実態としてそこに存在します。
それに対する見方、価値観の違いは
過去の実体験や固定観念が存在するか?否か?
に影響を受ける部分が大きいのです。
つまり話を戻すと
海外の人は日本における70年代80年代のCity Popに対する当時の記憶もなければ、固定概念もないわけです。
一度着いてしまったイメージや固定概念を一掃するのはかなり大変ですが
全くイメージや固定概念が存在しないものに対して、新たなイメージを付けるのは楽なことなのかもしれません。
ダサイと感じるのは、過去を生きた人の感覚であって
過去を知らない人にとっては新しいもの、未知なるもの
というわけですね。
そう考えていくと、70年代80年代のCity Popは、今から40年くらい前なのですが
人生100年と考えれば、100年後には、今生きている人はほとんど居なくなります。
時間の経過とともに、日々、人類の入れ替えが発生しているわけです。
ここに気づけると、実は現在は固定概念に染まった商品、サービス、楽曲、映画であっても
時間の流れとともに、固定概念を持っている人がいなくなるわけですから
リバイバルのチャンスもあるし
その一方で、ブランド商品などはブランドの状態を維持するための継続的努力を怠るわけにはいかないという事にも気付かされます。
⑤そもそもCity Popに潜在なニーズが存在していた
なぜCity Popがヒットしたのか
そもそもCity Pop自体が世界的なヒットを狙える「潜在ニーズ」が存在していた
ただそれだけの話、という考え方もできます。
もう少し深く掘り下げると
「City Pop的な70年代80年代日本カルチャーのポテンシャルがそもそも存在していた」
といった感じでしょうか。
「潜在ニーズ」なので、市場調査や過去のデータから、その存在を明らかにするのは難しい領域です。
でも、
これどうです?なかなかいいでしょ?
と提示したり、存在が知られることで「潜在ニーズ」が「顕在ニーズ」に変化したという考え方もできます。
潜在ニーズについては下記の記事で詳しく解説しています。
実は2020年から世界中でヒットしたCity Popの存在はゲーム業界でも、その断片らしきものが存在していました。
といったPC98、PC88、MSX時代を彷彿させるようなドット調アドベンチャーゲームが海外のインディーズから登場していますが、1980年代の日本のゲームに影響を受けています。
VA-11 Hall-Aは2016年に初めてリリースされており
こういう昔のゲームのような世界観に対するニーズが現在に存在すること証明したといえます。
もちろん、これらゲームとCity Popを一緒に語ることは難しいのですが
このようなテイスト、世界観に海外市場が興味を持つことのユーザーインサイトを掘り下げると
どこかに接点はあるかもしれません。
マーケティング視点でのさらなる深掘り
City Popが2020年に入って再ブレイクした理由については、ここまで解説した5つの仮説でなんとなく見えてきましたが、ここからは、さらにマーケティング視点で深掘りして行きます。
ちなみに、日本で市場調査をしてもCity Popに対する認知、理解度は限定的だと推測できます。参考になるインタビュー動画があります。
圧倒的に日本国内の認知が低く
70年代後半から80年代の日本カルチャーの価値に日本人は気づいていないともいえそうです。
ちなみに2021年初頭に海外のアーティストが「City POP」という曲をリリースしています。
既にご存知の人もいると思いますが、下記にMVを貼っておきましたので1度ご覧ください。
AGAというアーティストがリリースした、まさに「City Pop」というタイトル名ですが
ジャケットデザインからして明らかに80年代の
AGA→SEGAロゴ
City Pop→Out run
を意識しており
実際にMVにも、かなり日本を意識した映像になっています。
このMVを見た時にトロネコはこう思いました。
これは、2020年から再ブレイクしたCity Popというジャンルに対する
海外から見たブランドイメージを可視化したもの
このMVに登場する家電製品やオブジェクトをどう見るかは個人の判断にお任せしますが
もし、ゲームをワールドワイドで展開するなら、ここにヒントはありそうな気はします。
こんな感じで日本は見えていて、憧れや価値を感じていると。
まとめ:「昔の曲が流行った」という事象の先にあるものを深掘りするのがマーケティングの真髄
最後に今回の記事の「気付き」をまとめましょう。
マーケティングの仕事をしていると、多くの人が
「現在起きていること」と「過去のデータ」から未来を予測しようとします。
つまり、今回のケースで言えば「City Popが再ブレイクした」という事実だけから次のトレンドを予想しようとするわけですね。
(そもそもCity Popが海外でヒットしていることすら知らない人も多いわけですが)
でも重要なのは、単なる事象ではなく、その先にあるユーザーインサイトまで踏み込んで
その感情の裏側、数字で見えない部分に隠れている「何か」を見つけることが重要です。
今起きていること、過去のデータだけしか見えてないと、本当に大切なものを見落としてしまいます。
そして、
世の中は日々変化しています。
これは紛れもない事実です。
100年経過すれば、世界は全部入れ替わるし、日々が「入れ替え」に向けた過程であるということに気づくと、視界に入ってくる「マーケティングの世界」が激変します。
きっと、今、起こっている日々の変化は歴史の教科書でしか知らない「戦国時代」「江戸時代」でも起きていたはずですが、当時は日常生活の中で実感しにくかったわけです。
しかし、それがネットの普及によって、わかりやすく可視化、数値化されて実感できるようになりました。だから、マーケティング視点では、より世界が可視化され、見えやすくなった一方で、それら数字に惑わされやすくなったのも事実です。
今、起きている事実から未来を分析するのではなく
その先、裏側にある人間のインサイトを考察することで、未来を分析する解像度をあげることができます。
「潜在ニーズ」については下記の動画で詳しく解説していますので
お時間がある時にでも1度ご覧ください。
マーケティングの視点が広がります。